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「ビル・ポーターの鞄」

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セールスマンは、映画や芝居によく登場する職業です。「女と男」(1990年)の中の「ブルックス・ブラザースのシャツを着た男」でボー・ブリッジスが演じたり、ウィリアム・ワイラー監督の「黄昏」(1952年)でエディ・アルバートが演じたのは、列車で旅に出ているとき、ヒロインと出会うセールスマンの役でした。「皇帝円舞曲」(1948年)のビング・クロスビーは蓄音機、「男はつらいよ 寅次郎春の夢」(1979年)のハーブ・エデルマンはサプリメント、「ペニーズ・フロム・ヘブン」(1981年)のスティーブ・マーティンは楽譜、「大災難PTA」(1987年)のジョン・キャンディはシャワーカーテンのリングを、旅をしながら売っていました。「ザ・ミュージックマン」(1962年)のロバート・プレストンや「ペーパー・ムーン」(1973年)のライアン・オニールのように、旅のセールスマンのふりをして、実は詐欺師という設定もありましたし、「裏窓」(1954年)のレイモンド・バーのような犯罪者もいました。

セールスマンというだけで、アメリカ人には具体的なイメージがわくのか、主役であれ脇役であれ、セールスマンの仕事が丁寧に描写されることは少ないように思います。演劇の場合は特にそうで、アーサー・ミラー作「セールスマンの死」のウィリー・ローマンは、何を売っているのかが最後まで明らかにされないため、抽象的な印象があります。テネシー・ウィリアムズ作「ガラスの動物園」のアマンダは、電話で雑誌購読のセールスをしていますが、家族を支えられるだけの収入になるのか怪しいです。デビッド・マメット作「グレンギャリー・グレン・ロス」に出てくる不動産セールスマンたちの会話も、現実味は乏しいと思います。

わたしが見た範囲内で、セールスマンの日常がもっとも詳しく描かれていたのは「ビル・ポーターの鞄」(2002年)というTVムービーです。脳性マヒで体に障害があるのにセールスマンとして成功した人物の実話もので、「ファーゴ」(1996年)などのウィリアム・H・メイシーがビル・ポーター役です。母親(ヘレン・ミレン)の励ましで、ビルがワトキンズ社に自分を売り込むことに成功した日(1955年10月)からはじまり、最初の顧客(キャシー・ベイカー)を獲得するまでの苦労や、その後のお得意さんたちとの交流が描かれていくのですが、その合間に、大きなカバンを携えて足をひきずりながら歩くビルの姿がくり返し出てきて、1日に何マイルも移動する、体力を要する仕事ぶりが伝わってきます。イラストやサンプルを見せて注文をとり、あとで品物を配達するところまでがセールスマンの役目です。ビル・ポーターは車の運転ができないので、バスと歩きで移動し、配達もこなします。1970年、脊椎を痛めたビルは、配達を助手に任せることにします。助手として雇われたシェリー(キラ・セジウィック)と二人三脚で働く場面が続きますが、現在に近づいてくるにつれ、セールスの仕事も変化します。変化にともない、戸別訪問というセールスの手法が時代遅れになっていくのも見てとれました。

モデルとなったビル・ポーター氏は、70歳を過ぎた今もワトキンズ社のオンラインショップでセールスの仕事を続けています。サイトで彼の写真を見ると、ウィリアム・H・メイシーがメイクアップで顔を似せることに成功しているのがわかります。この作品は、40年近い時間の経過を描いていますが、衣装や小道具で時代の移り変わりをきちんと見せていました。劇場用映画に比べて低予算のTVムービーでも、そういうところをおろそかにしていないのが立派です。また、基本はシリアスですが、ビルが旅のセールスマンにまつわるダーティー・ジョークを披露する場面があって、笑いの要素も忘れていません。エミー賞で、作品、監督(スティーブン・シャクター)、主演男優、脚本(メイシーとシャクターの共同)など6部門の賞を獲得しています。

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