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「LAロー "The Venus Butterfly"」

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マイケル・タッカーが「ヒル・ストリート・ブルース」にゲスト出演したのは、第5シーズンの「新主任」、「処刑」のエピソードでジル・アイケンベリーと夫婦共演したときが初めてではなく、第1シーズンの「炎の女」の回に宝石泥棒役で出たときです。このときはタッカーのみの単独出演でした。「炎の女」のエピソードで脚本にクレジットされているアラン・レイキンズは、「LAロー」でダグラス・ブラックマン役を演じた俳優で、スティーブン・ボチコの姉ジョアンナ・フランクの夫です。ジョアンナ・フランクは「LAロー」でダグラス・ブラックマンの妻シーラを演じました。つまり、「LAロー」には、プロデューサーの身内の夫婦2組が出演して、ドラマでも夫婦役を演じていたことになります。

「LAロー」がスタートしたとき、マイケル・タッカー演じるスチュアートとジル・アイケンベリー演じるアンは、同じ法律事務所に勤めていて以前から知り合いだったけれど付き合いはじめたばかり、という設定でした。"The Venus Butterfly"は、パイロット版を除くと8話目にあたりますが、このエピソードがカップルの転機になります。

スチュアートは税法が専門で、離婚や遺産相続などの家庭法が専門のアーニー(コービン・バーンセン)といっしょに、重婚罪で捕まったフォスター・トラウトマン(ジョー・メイズ)のケースを担当することになります。アーニーの台詞で、重婚は離婚弁護士にとってホールイン・ワンのようなものと言わせているところを見ると、重婚だけで珍しいケースなのでしょうが、「LAロー」は誇張した極端な事件をよく扱っていて、これもその一例なので、トラウトマンには同時に11人の妻がいたことになっています。彼は、妻Aの土地を担保に借りた金で妻Bに車を買ってやったり、妻Cが質に入れたと思っていたコートを妻Dにプレゼントしたりして、互いに面識のない11人の女性に貢がせつつ、彼女たちの間を渡り歩いていました。スチュアートとアーニーは、11人の妻を会議室に集めて話を聞き、トラウトマンの罪状を整理しようとしますが、美人で裕福だけれど孤独な女たちは、自分を愛してくれたのはトラウトマンだけ、彼に牢屋に入ってほしくない、と口をそろえます。トラウトマン側についた弁護士リネット(シーラ・ウォード)もなかなかの美女で、12人目の被害者ではないかと推測されます。

リネットに頼まれて、スチュアートは留置所でトラウトマンに面会します。彼は、頭のてっぺんが禿げ上がった冴えない男でした。スチュアートが彼に言います。「あんた、ケイリー・グラントってわけじゃないのに、どうやって11人もの女性に結婚を承諾させたの? わたしなんて1人もムリなのに」。トラウトマンは、秘密は<ヴィーナス・バタフライ>だと答えます。そういう名前のベッドでのテクニックを習得したおかげで、女性たちは彼に夢中になったのです。トラウトマンはスチュアートにいくつか質問し、彼がアンを本当に愛していると悟ると、<ヴィーナス・バタフライ>を伝授します。トラウトマンはスチュアートの耳元でささやくだけなので、視聴者には詳細は不明です。

このエピソードでは、ほかにシリアスな事件が2つ描かれて、どちらも重い結末を迎えますが、いちばん最後に置かれているのは、ホテルの一室にいるスチュアートとアンの事後の場面です。アンはスチュアートに、36年生きてきた中で最高のエクスタシーを味わったと打ち明け、スチュアートも今のは<ヴィーナス・バタフライ>というのだと打ち明けます。アンは、さっさとルームサービスを頼んで、そのあと<ヴィーナス・バタフライ>をもう1度してとねだるのでした。

もちろん<ヴィーナス・バタフライ>は脚本家がこしらえた架空のテクニックで、いわば、ヒッチコック監督が映画のプロットを説明するときに用いた<マクガフィン>の応用なのですが、このエピソードが放送された翌日から、テレビ局に「もったいぶらずに<ヴィーナス・バタフライ>がどんなものか教えろ」という問い合わせが殺到したのだとか。このあと<ヴィーナス・バタフライ>はランニング・ギャグとしてシリーズ中に何度か登場し、始まったばかりの「LAロー」の知名度をアップさせる役目を果たしました。もう1つのランニング・ギャグとして、トラウトマンの頭の禿げ具合が、アラン・レイキンズ扮するダグラス・ブラックマンの禿げ具合にそっくりというのがありました。シリーズが進むにつれ、ダグラス・ブラックマンの異母兄弟が2人出てきますが、皆、同じ禿げ方に統一されています。

"The Venus Butterfly"の脚本には、パイロット版と同じくスティーブン・ボチコとテリー・ルイーズ・フィッシャー(「女刑事キャグニー&レイシー」など)の名前がクレジットされています。このエピソードはエミー賞の最優秀脚本賞を獲得しました。演出はドナルド・ペトリー(映画「ミスティック・ピザ」など)で、同じくエミー賞にノミネートされましたが、受賞したのはパイロット版を演出したグレゴリー・ホブリット(映画「真実の行方」など)でした。"The Venus Butterfly"の評価が高いのは、艶笑小話を下品にならないよう上手くさばいただけでなく、ほかのシリアスなストーリーラインを織り込みながら、トーンをくずさずに1つにまとめあげたからだと思います。

放送から20年以上経ち、"venus butterfly"は「LAロー」を離れて一人歩きしています。現在、この言葉でネット検索すると、おとなのおもちゃを扱うサイトや性の悩みに答えるQ&Aのサイトがたくさんひっかかります。怪しげなところが多いので、見出しを見ただけでクリックはしていませんが、<ヴィーナス・バタフライ>という名前のおもちゃやテクニックが存在することになっているのは分かります。嘘から出た真、といったところでしょうか。「北北西に進路をとれ」の架空のスパイ、ジョージ・カプランが、ケイリー・グラントのおかげで実在する羽目になるという展開にも似ています。

<ヴィーナス・バタフライ>の成功は、今も影響を与えているようです。数年前、「レスキュー・ミー」という消防士のドラマに<ヴィーナス・バタフライ>が引用されていたり、昨年の秋にスタートした"Dirty Sexy Money"というドラマには<イタリア人の銀行家>という体位の名前が副題になっている回があると聞きました。どちらも未見ですが、艶笑小話は好きなので、チャンスがあれば見てみたいものです。

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