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「トットのマイ・フレンズ」"The Ritz"

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ラジオドラマ「モーツァルトの暗殺」(1981年)で杉浦直樹が演じたサリエリは、冷酷非情なエリートという感じでしたが、映画「アマデウス」(1984年)でF・マーレイ・エイブラハムが演じたサリエリは、人間的に弱い部分が強調されていました。

黒柳徹子著「トットのマイ・フレンズ」(新潮文庫)に、F・マーレイ・エイブラハムが登場する部分が2か所あります。最初は、「メリーさん」という章の導入部で、「アマデウス」の宣伝のため来日して「徹子と気まぐれコンチェルト」(NHK)に出演したとき、雑談するうちに、2人が1970年代の同じ時期にニューヨークで演技の勉強をしていたことが分かったというエピソードに出てきます。「メリーさん」とは演技コーチとして有名なメリー・タラサイ(Mary Tarcai、ターサイ表記もあり)のことで、テレビの仕事を休んで訪米した黒柳徹子は彼女に演技を学んでいて、エイブラハムも彼女のクラスをとろうと考えていたのだそうです。

2度目に登場するのは<あとがき>です。ここでは後日談として、エイブラハムがサリエリの演技で獲得したオスカー像を、日本で個展を開くアーティストに託し、そのアーティストを通じて黒柳徹子もオスカー像を手にしたエピソードが書かれていて、証拠写真が掲載されています。「徹子のきまぐれコンチェルト」にエイブラハムが出演した回は見た記憶がありますが、番組のあとも交流が続いていたと知って驚きました。同じころに演技の勉強をしていたことで、日本流に言うと、同期の桜というか、同じ釜の飯を食ったような気持ちになるのでしょうか。ちなみに、「メリーさん」の章には、「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」のヒロインが使っていたタイプのモノローグ集で演技のクラスのための準備をする場面が出てきて、興味深かったです。

エイブラハムのブロードウェイの出演歴は1968年からあるので、プロとして仕事をしながら演技のクラスをとり続けていたことになります。彼が出演した舞台のうち、1975年初演の"The Ritz"の台本を読みました。「マスター・クラス」や「蜘蛛女のキス」のミュージカル台本などで何度もトニー賞を獲得しているテレンス・マクナリーが書いたドタバタ喜劇です。マフィアに命を狙われている男(ジャック・ウェストン)が身を隠したホテルが、ゲイ専用のバスハウスだったという設定で始まり、古典的なすれ違い・勘違い・人違いが重なって、いくつものドアがバタバタ開いたり閉ったり、人が出たり入ったりするパターンのコメディーです。エイブラハムの役は、クリスというゲイの客で、出番も多く、笑いのとれる台詞がたくさんあります。クリスは、世の中の男が皆ゲイであるかのような物言いをするタイプで、ロナルド・レーガンはザビア・クガートと付き合っていたが、別れて、今はジョン・ウェインが恋人だ、などと言ったりします。クリス以外にも、強烈なキャラクターがいろいろ用意されています。中でも、主人公をショービジネス界の有名プロデューサーと勘違いし、熱心に自分を売り込むグーギー・ゴメスという歌手は、もっともおいしい役です。初演でグーギーを演じたのはリタ・モレノで、彼女はトニー賞助演女優賞を獲得しました。

"The Ritz"は1976年にリチャード・レスター監督の手で映画化されていますが、日本では劇場未公開で、テレビ放送もソフトの発売もないようです。1976年というと、レスター監督は「ロビンとマリアン」も作っていて、こちらはオードリー・ヘップバーンとショーン・コネリーの顔合わせでした。このスター・パワーに比べると、ジャック・ウェストン、リタ・モレノ、F・マーレイ・エイブラハム、ジェリー・スティラーが舞台と同じ役で出演している"The Ritz"は目立たなくて当然でしょう。しかも、バスハウスという施設は、エイズが猛威をふるったときに悪名が広まって閉鎖されたことで、悪いイメージが定着してしまいました。しかし、昨年、原作の戯曲はブロードウェイで再演されました。70年代当時の風俗を懐かしむ傾向が出てきたからでしょうか。これをきっかけに"The Ritz"が日本でも見られるとうれしいです。

先ほど発表されたトニー賞候補のリストを見ると、"The Ritz"は全部門でシャットアウトされていますが、同傾向の「ボーイング・ボーイング」というドタバタ喜劇の再演が多数ノミネートされていました。マルク・カモレッティのこの戯曲は、トニー・カーティスとジェリー・ルイスの主演で1965年に映画化されています。すべてを心得ている家政婦役のセルマ・リッターの演技が際立っていました。原作は日本でも人気があり、レイ・クーニー作「ラン・フォー・ユア・ワイフ」、マイケル・フレイン作「ノイゼス・オフ」、ニール・サイモン作「ルーマーズ(噂のチャーリー)」と並んで、いろいろな劇団が上演しています。「アマデウス」の作者ピーター・シェイファーが書いた「ブラック・コメディー」も同傾向の人気作です。このタイプのドタバタは、しょっちゅう日本で上演されているので、わたしが知らないだけで"The Ritz"もすでに翻訳上演されているかもしれません。

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2008年5月

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