「マラー/サド」
"A Funny Thing Happened on the Way to the Forum"(1962年初演)は、ミュージカルにしては長いタイトルです。"How to Succeed in Business Without Really Trying"(1961年初演、邦題「努力しないで出世する方法」)より2語も多くて、10単語あります。5月16日付のバラエティ・ジャパンの記事「長~い邦題がプチ・ブーム!?」によると、映画の邦題がこのところ長くなる傾向が見られるそうですが、ブロードウェイの演劇でも同様のブームが1960年代初めにあったようです。そのきっかけは、上記のミュージカル2作品がヒットし、高く評価されたからだと思います。「努力しないで出世する方法」はピュリッツァー賞を獲得して1400回以上のロングランになりましたし、「ローマで起った奇妙な出来事」の上演回数も900回を超えました。
ストレート・プレイに目を向けると、アメリカ産のものでは、アーサー・コピット(コープイット表記もあり)作"Oh Dad, Poor Dad, Mama's Hung You in the Closet and I'm Feelin' So Sad"(63年初演)と、ポール・ジンデル作の"The Effect of Gamma Rays on Man-in-the-Moon Marigolds"(64年初演)が双璧でしょう。後者は1970年にオフブロードウェイで上演されて、翌年ピュリッツァー賞を受賞しました。しかし、最長のタイトルは、ペーター・ヴァイスによってドイツ語で書かれ、英訳版がピーター・ブルック演出で英米で上演された"The Persecution and Assassination of Jean-Paul Marat as Performed by the Inmates of the Asylum of Charenton Under the Direction of the Marquis de Sade"(63年出版、64年イギリス初演、65年アメリカ初演)とされています。アメリカ産の2作品と違って、これは日本でも上演され、映画版が公開されたので邦題があります。「マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントン精神病院の患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺」というのがそれで、たいていの場合、「マラー/サド」と略されています。
「マラー/サド」の映画版(1967年)は、10年ほど前にBSで放送されたのを見ました。長いタイトルを通じて劇中劇の構造を知っていたので、あまり混乱せずに見られた記憶があります。ミュージカル「ラ・マンチャの男」(65年初演)も、思えば似た劇中劇の構造を採用していますが、「マラー/サド」よりずっと分かりやすかったです。今回、調べてみて、この2作品が同時期にブロードウェイで初演されていたことに気づきました。長い題名だけでなく、劇中劇も当時の流行だったのかもしれません。
アメリカ産の2作品も映画化されていますが、どちらも日本未公開のようです。アーサー・コピット作"Oh Dad..."は、リチャード・クワイン監督、ロザリンド・ラッセル主演という不思議な組み合わせです。インターネット・ムービー・データベースによると、ラッセル演じる女性が夫の死体を剥製にして、それを携えて息子といっしょに旅に出る話らしいです。息子を演じているのは、「努力しないで出世する方法」の初演と映画版に主演したロバート・モースです。ほかにバーバラ・ハリス、ヒュー・グリフィスが出演しています。ポール・ジンデル作"The Effect..."は、ポール・ニューマン監督、ジョアン・ウッドワード主演の夫婦コンビで映画化されました。ウッドワードは2人の娘を育てているシングル・マザーに扮していて、このコンビがのちに映画化した、テネシー・ウィリアムズ作「ガラスの動物園」(1987年)と同傾向の叙情的な作品だそうです。後者だけでもよいので見てみたいものです。
60年代のブームから時期はずれますが、1982年に初演された"Come Back to the 5 & Dime, Jimmy Dean, Jimmy Dean"という舞台劇もタイトルが長いです。これはロバート・アルトマンがブロードウェイ初演の演出を手がけ、その時とほぼ同じキャストで同年に映画化しました。映画版は昨年、日本で初公開されましたが、邦題は「わが心のジミー・ディーン」と、ふつうの長さでした。「ジャイアンツ」(1956年)のロケ地近くで結成されたジェームズ・ディーンのファンクラブのメンバーが20年ぶりに集まる話です。WOWOWで放送したときに見ましたが、サンディ・デニス、シェール、キャシー・ベイツ、カレン・ブラックなど女優たちの演技合戦が見られる貴重な作品だと思いました。
オフ・ブロードウェイの芝居に目を向ければ、奇をてらった長いタイトルのもの、副題があるために長くなっているものが、現在も上演されています。しかし、オン・ブロードウェイでは、60年代だけの流行に終わったようです。90年代に"A Funny Thing Happened on the Way to the Forum"と"How to Succeed in Business Without Really Trying"がリバイバルされたとき、どちらも短縮したタイトル(前者は"Forum"、後者は"H2S")をポスターなどのロゴとして使っていました。後者が日本で上演される場合も、近年は「ハウ・トゥ・サクシード」という具合に冒頭だけをタイトルとして採用しています。長いタイトルは宣伝効果の妨げになることのほうが多いからではないでしょうか。




















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