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「モーツァルトの暗殺」

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「ふたりの部屋」でラジオドラマ化されていたのを覚えている作品は、「ジョンとメリー」、「ある愛の詩」以外だと、佐藤愛子著「娘と私の時間」(文野朋子、西山水木)、椎名誠著「さらば国分寺書店のオババ」(武知杜代子、伊武雅刀)など、なぜかエッセイに基づくものが多いです。「ふたりの部屋」の出演者は、番組の始まりと終りで案内役を兼ねてDJ風のおしゃべりをしていたから、完全にフィクションの役柄に留まらない印象がありました。そのせいで、フィクション以外の原作のほうがしっくりきたのでしょう。

「ふたりの部屋」をよく聞いていたころ、週末の夜の単発ドラマとして、同じくNHK-FMで放送されたのが「モーツァルトの暗殺」(1981年)です。立風書房から翻訳が出ていたデービッド・ワイスの同名小説(未読です)をラジオドラマ化したものですが、ドラマと教養番組をミックスしたような、変わった作りの特別番組でした。全体の案内役を荻昌弘がつとめていて、ドラマの途中でモーツァルト暗殺説についての薀蓄を語ったり、BGMに使われているモーツァルトの曲を紹介したりしていました。さらに、ロンドンで評判を呼んでいたピーター・シェーファー作の舞台劇「アマデウス」の紹介も挿入されていたのです。同じ年の秋に、芸術祭参加作品として再放送されたときは、確かドラマ部分だけを編集したものでした。しかし、本放送のドラマ以外の部分もたいへん面白かったです。モーツァルト暗殺説を知ったのはこのドラマが初めてでしたし、映画「アマデウス」(1984年)の公開が楽しみだったのも、このドラマを聞いたおかげでした。当時は芝居を見る習慣がまだなく、江守徹主演の舞台は見ていません。江守徹訳で出ていた戯曲の翻訳を読んだのも映画よりあとでした。そういうわけで、映画版を見るまで、わたしの頭の中にあったモーツァルトとサリエリのイメージは、ラジオドラマの谷啓と杉浦直樹でした。この2人は、脚色を担当した福田陽一郎の舞台によく出ていたのですが、当時はそんなことは知らずに聞いていました。

ドラマは、モーツァルトの死後30年経って、サリエリが彼の毒殺を告白したという新聞報道の紹介で始まります。ナレーターは小池朝雄です。それから、生前のモーツァルトの手紙が朗読されます。ふつうのドラマなら、モーツァルト役の谷啓が手紙の声もつとめるはずですが、このドラマでは山根基世アナウンサーが朗読しています。このあたり、ドキュメンタリー番組の手法を採用していて、完全なフィクションなのに史実であるかのような印象を与える演出です。場面はボストンに飛んで、モーツァルトを敬愛する音楽家志望のアメリカ人青年ジェイスン(三ツ木清隆)が、新婚の妻デボラ(水沢アキ)と共に、ベートーベン(岡村喬生)にオラトリオの作曲を依頼するため、ヨーロッパに行くことになります。ジェイスンの本当の目的は、モーツァルトの死の真相を探ることでした。ジェイスンとデボラは、船と馬車でウィーンまで移動しながら、モーツァルトを知っていた人々に話を聞いて回ります。この部分は私立探偵小説風で、証人役を森塚敏、浜村純、中村伸郎、久米明などが演じています。証言の内容は再現ドラマ風に描かれ、谷啓のモーツァルトは、この回想場面にのみ登場します。モーツァルトの周囲の人々は、ダポンテ(高木均)、コンスタンツェ(岸田今日子)、アロイジア(加藤治子)、ゾフィー(稲野和子)などの配役でした。ジェイスンとデボラは、特高警察のフーベル(名古屋章)に目をつけられ、モーツァルトの周辺を嗅ぎまわるなと脅されます。こうした展開はハードボイルドかスパイ小説みたいで、全体を見ると、さまざまなエンターテインメントの要素をぶちこんだ歴史大作という感じでした。ほかに、三津田健、巌金四郎、下元勉、佐々木功、島田祐子、友竹正則、石田太郎らの出演で、大作らしいにぎやかさです。

「モーツァルトの暗殺」と「アマデウス」では、モーツァルトの死の背景は異なりますし、モーツァルトとサリエリの性格づけも違います。原作が別なのだから、当然と言えば当然ですが、まだスレていなくて当たり前のことが分かっていなかったため、「アマデウス」を見て驚きました。それは嬉しい驚きで、キャラメルではありませんが、<1粒で2度おいしい>思いをした気分でした。わたしがリメイク歓迎派で、同じ題材がさまざまなメディアで取り上げられるのを追いかけるのが好きなのは、このときに原因があるのかもしれません。

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2008年5月

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