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「ふたりの部屋」

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「東京の空の下オムレツのにおいは流れる」の中の文章で「太陽がいっぱい」(1960年)の魚料理を食べるシーンのことを読んだとき、「太陽がいっぱい」はまだ見ていなかったと書きましたが、土曜ワイド劇場で放送された「新・太陽がいっぱい 光の中の殺人者」(1979年)は見ていました。これは近藤正臣主演で、シンガポールだったかハワイだったかを舞台にした2時間ドラマです。主人公は人力車夫をしていて、あるとき乗せたわがままな客(確か西岡徳馬でした)が金持ちの跡取り息子と知り、彼を殺して自分が彼に成りすます、という具合に展開します。

80年代初め、わたしが住んでいた市内には名画座がなかった(洋画のロードショー館もありませんでした)ので、往年の名作はテレビ放映が頼りでした。いつ放送されるか分からないから、原作が手に入るものは原作を読んでいましたが、パトリシア・ハイスミス著「太陽がいっぱい」の角川文庫版はなかなか見つからなかったため、土曜ワイド劇場で初めてストーリーの全容を知ったわけです。「太陽がいっぱい」はラストシーンが有名ですが、それについては土曜ワイド劇場より前に知っていました。バラエティー番組のコントでパロディー化されたものを見たか、あるいは映画音楽の番組でニーノ・ロータの曲の背景にラストシーンが流れていたか、とにかくテレビ番組を通じて知りました。いわゆるネタバレですが、子どもが背伸びをして大人の番組を見るから悪いのだ、大人はこの映画を知っていて当然なのだからと、自分で納得していました。

当時の2時間ドラマは、映画で有名な作品のリメイクが多かったと思います。「太陽がいっぱい」と共通する要素の多い「陽のあたる場所」(1951年)も、沢田研二、夏目雅子、森下愛子ほかの出演で翻案されたし、「過去をもつ愛情」(1955年)も日本人キャストで先に見ました。ダニエル・ジェランの役が小林薫、フランソワーズ・アルヌールが大原麗子、トレバー・ハワードが杉浦直樹という配役でした。これは原作と同じリスボンにロケしていました。

ラジオドラマも、過去に映画化された原作を取り上げることがよくありました。NHK-FMの「ふたりの部屋」は、そうした例が多かったように覚えています。出演者は男女1人ずつが基本で、月曜日から金曜日まで毎日15分ずつ放送し、1週間か2週間でストーリーが完結する番組でした。たとえば、ミア・ファローとダスティン・ホフマンが主演した、マービン・ジョーンズ原作の「ジョンとメリー」(1969年)を、浅野温子と佐藤仁哉の顔合わせで放送していました。エリック・シーガル原作の「ある愛の詩」(1970年)は、続編もドラマ化していて、ライアン・オニールの役が篠田三郎、アリ・マッグローが水沢アキ、続編の相手役キャンディス・バーゲンが中野良子でした。「ジョンとメリー」や「ある愛の詩」はテレビで頻繁に放送していたし、原作も簡単に手に入ったので、ラジオドラマは後だったかもしれません。後か先かはともかく、映画を見たあとでも、上書きされることなく記憶に残っているのは、ラジオドラマ版が独立した作品としてよく出来ていたからでしょう。

以上は、原作がはっきり分かるようにクレジットされていた例ばかりですが、2時間ドラマ枠が乱立して毎日のように放送されていた80年代前半には、かなり怪しげな作品もありました。録画を残していないので、はっきり言い切れるわけではありませんが、昔の外国映画を原作と断らずに日本を舞台にして翻案したものが、相当数あったと思います。80年代後半になって、往年の名画も置いている大きなレンタル店で借りたビデオを見たり、深夜のテレビ放送でマイナーな映画を見たりしていて、以前2時間ドラマで見たのと同じ話だと思い当たったことが何度もありました。「いのちの紐」(1965年)のシドニー・ポワチエの役を主婦に置き換えたもの、「イブの三つの顔」(1957年)にそっくりな症例を扱ったもの、アン・バクスター主演の某作品と最初から最後まで似ているものを見た記憶があります。2時間ドラマではなく連続ものですが、「マダムと泥棒」(1955年)と同じ設定のものもありました。わたしより上の世代で、もとになった映画を封切り時に見ていた人の中には、ドラマが放送された時点で翻案だと気づいた人がいたかもしれません。

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2008年5月

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