「映画音楽の鬼才 バーナード・ハーマン」
"The Panama Deception"(1992年)がアカデミー賞ドキュメンタリー長編賞を獲得した年に、同時に候補となった作品のひとつです。原題は"Music for the Movies: Bernard Herrmann"といいます。
「映画音楽の鬼才 バーナード・ハーマン」というのは、NHK教育テレビで93年ごろに放送されたときの邦題です。夜8時台に海外ドキュメンタリーのレギュラー枠があり、そこでの放送だったので、約45分に編集されていました。インターネット・ムービー・データベースには、この作品の上映時間が書いてありませんが、アマゾン・コムによると、海外で出ているVHSとDVDは58分らしいので、わたしが見たのは15分ほどカットされたバージョンだったようです。
仮に全長版を見ても同じ感想を持つと思うのですが、バーナード・ハーマンほどの大物をとりあげるなら、2時間ぐらいの長尺ものにしてほしかったです。ルシール・フレッチャー(ハーマンの最初の妻、「私は殺される」ほかの作者)、エルマー・バーンスタイン、デビッド・ラクシン(「ローラ殺人事件」などの作曲家)、クロード・シャブロル、マーティン・スコセッシなど、証言者として登場する面々の話がすべて興味深いため、見終わったとき、もっとじっくり話を聞きたくて物足りない気持ちでした。証言の内容を裏付ける目的で、「市民ケーン」「北北西に進路をとれ」「サイコ」などの、ハーマンの音楽が流れるシーンが引用されます。目的に添って的確に選ばれてはいるのですが、有名な映画の有名な場面ばかりなので、短く切り上げて早くインタビューにもどってほしいと思いました。
インタビューの内容で特に印象的だったのは、「危険な場所で」(1952年)のエピソードでした。ハーマンは、この映画のスコアを録音したとき、ヴィオラ奏者の演奏を特に気に入って、クレジットに自分の名前と彼女の名前を併記することを認めさせました。バージニア・マジェウスキ本人が登場して証言しています。オーケストラの名前でなく、演奏家個人の名前がクレジットに出ることは、確かに珍しいでしょう。スター・プレーヤーでないのでなおさらです。
もっと印象的だったのは、「オリエント急行殺人事件」(1974年)の冒頭で列車が出発するシーンにリチャード・ロドニー・ベネットがつけた軽快なワルツを聞いたハーマンが、死を運ぶ列車なのにそんな曲はふさわしくない、と評したというエピソードです。この感覚のずれっぷりは滑稽であると同時に悲劇的です。このエピソードの前に、「黒衣の花嫁」(1968年)でのフランソワ・トリュフォー監督との対立、「引き裂かれたカーテン」(1967年)でのヒッチコック監督との決別が語られますが、両方ともハーマンの感覚のずれが主な原因だったのではないかと思いました。「引き裂かれたカーテン」のグロメク殺害シーンに、ハーマンの用意していた音楽をかぶせたバージョンとかぶせないバージョンを比較する趣向があります。作り手は、明らかに音楽ありのバージョンがすぐれていると主張していますが、わたしは反対の意見です。
クロード・シャブロル監督は、ヒッチコックの研究書を著したこともある人ですから、専門家ならではの発言が多くて、後半にしか登場しないのに話が充実していました。しかし、「サイコ」(1960年)の犯人をばらしているのが気になります。映画ファンになりたてで、「サイコ」を見ていないのにこのドキュメンタリーを見るつもり(YouTubeに短縮版があります)の人がもし万一いたら、「サイコ」を先に見てください。無用の心配かもしれませんが、念のために記しておきます。
なお、"Music for the Movies"は4本シリーズとして作られました。これ以外には<武満徹編>が「光と音の詩 武満徹の映画音楽」としてNHKで放送されたことがあるそうです。残りの<ジョルジュ・ドルリュー編>と<ハリウッド映画全般編>に関しては、日本語の情報を見つけられませんでした。オスカー候補となったのは<バーナード・ハーマン編>だけですが、残りの3本もいつか見てみたいものです。




















コメントする