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"I Never Forget a Meal"

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「流されて・・・」(1974年)のリナ・ウェルトミューラー監督は、「セブン・ビューティーズ」(1975年)でアカデミー賞監督賞にノミネートされました。女性が監督賞候補になったのは、アカデミー賞が始まって以来、彼女が最初でした。「流されて・・・」と「セブン・ビューティーズ」がアメリカで公開されたとき、主役のジャンカルロ・ジャンニーニの声の吹き替えを担当したのが、マイケル・タッカーという俳優です。アメリカのテレビドラマを見ている人なら、タッカーは「LAロー」(1986~94年)でスチュアート・マーコウィッツを演じた人だと言えば、顔を思い浮かべてもらえると思います。映画しか見ない人には、「ラジオ・デイズ」(1987年)で、ウディ・アレン監督自身と思われる少年ジョー(セス・グリーン)の父親を演じていたと言えば分かってもらえるでしょうか。「カイロの紫のバラ」(1985年)では、ジェフ・ダニエルズ扮する新人スターのエージェント役でした。

そのマイケル・タッカーが初めて書いた本が"I Never Forget a Meal"(Little, Brown社、1995年)です。この本は回想録と料理本を兼ねたユニークなもので、全部で19の章があるのですが、各章で綴られるさまざまな思い出が必ず当時食べた料理につながっていく構成になっており、文章の合間にレシピが挿入されています。

リナ・ウェルトミューラー監督との思い出は第12章に書かれています。ニューヨークのセントラル・パークでシェイクスピアの「間違いの喜劇」を上演したとき、マイケル・タッカーは主役の一人でした。この舞台は、背景を禁酒法時代のマフィアの世界に置き換えた演出だったので、出演者はイタリア訛りで台詞を言いました。「流されて・・・」をアメリカで配給する会社の人が舞台を見て、タッカーに吹き替えのオーディションを受けるよう電話してきます。吹き替えの仕事が縁で、タッカーはウェルトミューラー監督が初めて英語で撮る映画のダイアローグ・コーチとして雇われ、家族とともにイタリアを訪れます。作品は、ジャンカルロ・ジャンニーニとキャンディス・バーゲン主演の"La Fine del mondo nel nostro solito letto in una notte piena di pioggia"(1978年)という、これまた長いタイトルの映画です。

撮影現場でのウェルトミューラー監督は専制君主のようで、ジャンニーニに割り当てられた英語の台詞の読み方をタッカーが正しく教えても、監督は自分の発音・アクセントを強制します。タッカーは、この映画に俳優として出演もしましたが、監督は彼の最初の台詞に何度もNGを出して、現場のスタッフに対し、彼女の優位を見せつけます。おまけに、同行したタッカーの妻と娘にも役を与え、娘のほうが父親より演技の勘がよいと誉めそやすのです。こうした気まずい状況を解決するのに、タッカーの<ムーニング>が効果があったというエピソードが笑えます。タッカーは撮影現場で監督にむかって尻を出し、抗議したのです。この出来事がきっかけでタッカーは仲間と認められ、一日の終わりにラッシュを一緒に見ろと声をかけられるようになります。

スタッフの中で、タッカーは撮影監督のジュゼッペ(ペッピーノ)・ロトゥンノと特に親しくなります。タッカー夫妻とロトゥンノ夫妻には同年輩の娘がいて、子ども同士が仲良くなったからです。2組の家族の交流は現在も続いています。こうした経緯を語りながら、タッカーは第12章にもいくつかのレシピを挿入しています。夜に台詞の稽古をしながらジャンニーニが作ってくれたアーリオ・オーリオ・スパゲッティ、撮影中に宿泊したホテルで食べた子羊の肉、ロトゥンノの妻が作ってくれたトスカーナ料理のレシピなどです。

完成した映画の出来がどうだったのか、日本未公開なので判断できませんが、ウェルトミューラー監督が同じく英語で撮った「ムーンリット・ナイト」(1989年)は、あまりピンとこない作品だったように覚えています。タッカーはジャンニーニに英語の指導をして、飲み込みが早いのに感心したそうです。80年代から現在まで、ジャンニーニがハリウッド映画にひんぱんに出演しているのを見れば、タッカーの指導の効果があったのは明らかだと思います。

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2008年5月

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