"Four by Sondheim"
「トットのマイ・フレンズ」(新潮文庫)には、「メリーさん」以外に、ユル・ブリンナー、テネシー・ウィリアムズ、向田邦子、渥美清、坂本九などの章があり、黒柳徹子本人が彼らと会ったときのこと、および他人から聞いたエピソードによって、各人物像が浮き彫りにされています。
今回この本を読み直したのは「ゼロ・モステル」の章のためでした。ゼロ・モステルは、「屋根の上のバイオリン弾き」のテビエ役をブロードウェイ初演(1964年)で演じた天才肌のコメディアンですが、ノーマン・ジュイソン監督の映画版(1971年)では彼でなくトポルがテビエを演じたため、日本ではあまりなじみがないスターだと思います。モステルの主演した、メル・ブルックス脚本・監督の映画「プロデューサーズ」(1968年)は、最近でこそオリジナルもミュージカル版も人気がありますが、長らく日本未公開でした。「屋根の上のバイオリン弾き」の前に主演したミュージカル「ローマで起った奇妙な出来事」も、日本ではあまり頻繁に上演されていないようですし、リチャード・レスター監督による映画版(1966年)はカルト作品扱いで、広く知られているとは言いがたいです。今週末にBSハイビジョンで放送予定なので、これがきっかけで「プロデューサーズ」のように徐々に知名度が上がっていってほしいです。
その「ローマで起った奇妙な出来事」をはじめ、「リトル・ナイト・ミュージック」、「スウィーニー・トッド」、「ジョージの恋人」という4つのミュージカルの台本を収めたのが、現在少しずつ読んでいる"Four by Sondheim"(Applause刊、2000年)です。4つともスティーブン・ソンドハイムが作詞・作曲を手がけていますが、台本作者はそれぞれ違っています。アマゾン・コムで調べると、各作品の台本は個別にも出版されています。"Four by Sondheim"には、台本のほか、各作品の関係者による序文、アル・ハーシュフェルドのイラスト、セットや衣装のデザイン画、ステージ写真、カットされた曲の歌詞、主な上演の配役一覧、主なディスコグラフィーが付録になっていて、ファンのための愛蔵版といったところでしょうか。楽譜以外の資料がそろっている本です。ミュージカルの作詞・作曲を手がけた人は多いけれど、このような本が出ているのはソンドハイムくらいでしょう。それだけ彼の評価が高く、支持する人が多いのだと思います。
「ローマで起った奇妙な出来事」の台本は、ほかの3作品と比べると、ページ数が少ないです。その理由は、11ページの登場人物一覧の下に書かれている、作者のメモを見て分かりました。これはボードビリアンのための台本だから、台本に書かれていないアドリブや滑稽な仕草が実際の上演では追加されるので、その部分は出演者や読者が補ってほしい、というのです。ゼロ・モステルはアドリブが得意でした。ノーマン・ジュイソン監督が映画化にあたって彼をテビエ役に選ばなかったのは、撮影がアドリブで滞ってしまうのを恐れたからだという説もあります。「トットのマイ・フレンズ」にも、「屋根の上のバイオリン弾き」がモステルの主演で再演されたとき、観客はスタンディング・オベーションしたのに、振付のジェローム・ロビンスら関係者は立ち上がらず、モステルが本番でリハーサルと違う要素を付け加えたことを非難したというエピソードがありました。ミュージカルにもいろいろ種類があり、アドリブがふさわしい作品と、ふさわしくない作品があるのでしょう。「ローマで起った奇妙な出来事」はアドリブを前提に書いてあるわけだから、固定された映画版より、生の舞台で見るほうがずっと楽しめるタイプの作品なのかもしれません。




















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