「サンタバーバラ」
「ハリウッドの妻たち」(1985年)以外にも、<プライムタイム・ソープ>と呼ばれるアメリカのテレビドラマは、日本でもたくさん放送されました。「ペイトン・プレイス物語」「ダラス」「フラミンゴ・ロード」「メルローズ・プレイス」「デスパレートな妻たち」「THE OC」などです。しかし、<デイタイム・ソープ>で日本で放送されたものは極端に少ないです。WOWOWが90年代に放送した「サンタバーバラ」は珍しい例だと思います。
「サンタバーバラ」は1984年から93年まで続いたシリーズです。カリフォルニア州サンタ・バーバラを舞台に、キャプウェル家という裕福な一族を中心とした愛憎劇が展開します。と書くと、私立探偵小説の愛読者の中には、ロス・マクドナルドとスー・グラフトンが物語の舞台に選んだ土地(名前をサンタ・テレサと変えていますが)を映像で見られると勘違いされる方がいるかもしれません。しかし、「サンタバーバラ」はスタジオのセットで撮影された場面がほとんどで、俳優のクローズアップが延々と続くため、そうした期待には応えてくれません。ロケーションの魅力はないけれど、荒唐無稽なシチュエーションや筋書きがお好きな向きにはたまらないだろうエピソードがいくつもありました。
・ニュースキャスターの女性が多重人格で、別の人格のとき宝石泥棒をくり返していた。
・人工授精で妊娠した女性が、獣医しかいない状況のため動物病院で出産。
・庭の湧き水にアンチエイジングの効果があることが分かったので瓶詰めにして売り出し、もともと金持ちが更に金持ちに。
わたしは、チャールズ・ディケンズの小説が好きなくらいですから、ストーリーの細部の辻褄が合わなくても構わないし、メロドラマ的偶然の多用にも慣れていますが、「サンタバーバラ」の荒唐無稽さにはついていけませんでした。それでも、デイタイム・ソープを見られる機会は滅多にないので、しばらくは見続けました。WOWOWは初め字幕版を放送していたけれど、途中から吹き替えに変わって、ほかの用事を片付けながら見られるようになったから出来たことです。
見続けるうちに気づいたのは、プライムタイム・ソープに比べて、同じ役を演じる俳優が交代する頻度が高いことです。たとえば、「サンタバーバラ」が始まった当初は、ロビン・ライト(ケリー・キャプウェル役)が出演していたそうですが、WOWOWは後半の90年あたりのエピソードから放送しはじめたので、すでにケリー役は別の女優に交代していました。また、ミンクス・ロックリッジという役を最初に演じたのは、「レベッカ」(1940年)の家政婦ダンバース夫人役で有名なジュディス・アンダーソンですが、WOWOW放送時には、「絹の靴下」(1957年)などのミュージカルで知られるジャニス・ペイジに変わっていました。2人はまったく異なるタイプです。目や髪の色が違う俳優が役を引き継ぐ例も多く見られました。
「サンタバーバラ」は10年足らずで終了していますが、ほかのデイタイム・ソープには、30年、40年と続いているものもあります。映画「トッツィー」(1982年)の中で描かれていたのは、"General Hospital"というシリーズに基づく架空の番組ですが、"General Hospital"は1963年に始まり、現在も放送中です。1930年代にラジオドラマとしてスタートし、1952年から現在までテレビで続いている"Guiding Light"のような例もあります。いきおい、ひとつの役を5代目、6代目の俳優が演じていることも珍しくないので、アメリカの視聴者は慣れっこなのでしょう。
俳優が交代するのは、重労働のせいでもあると思います。プライムタイム・ソープも台詞は多いですが、「サンタバーバラ」の台詞の量は尋常ではなく、時には台本数ページにわたるモノローグもありました。たとえば、ディナーテーブルの料理を折り合いの悪い父親に見立て、息子役の俳優が恨みつらみを延々と料理にぶつけたりするのです。クローズアップが多いので、プロンプターやカンニング・ペーパーを使って台詞を覚えずにすますのにも限界があるでしょう。
「サンタバーバラ」の出演者は、女優も男優も、アップに耐える整った顔の人たちでしたが、強烈な個性は感じられませんでした。男優の役は、刑事、映画監督、新聞社主、もと神父だった刑事、もと病院のレジデントだった山岳レスキュー隊員など幅広いのに、いずれも理髪店に置いてあるヘアスタイルのカタログから抜け出したような役者が演じていました。女優は、主役よりも主人公の友だちの役がふさわしいタイプが多く、セックス・アピールは控えめでした。視聴者に女性が多いので、女性に反感を持たれない風貌の人が選ばれていたようです。これは"The Doctors"(1963~82年)という別の番組の例ですが、キャスリーン・ターナーは「白いドレスの女」(1981年)で映画デビューする前にこの番組で役をもらったものの、色っぽすぎると視聴者から不評で、短期間でクビになったのだそうです。
WOWOWは「サンタバーバラ」を平日昼のノンスクランブルの時間帯に連続放送していましたが、途中で、日曜日に週1回のみ放送するパターンに変更しました。目まぐるしい展開が毎日続くのが<売り>なのに、週1回では間延びしてストーリーが停滞するので、わたしは見るのをやめましたが、キチンと最終回まで放送されたそうです。ただし、後が続きませんでした。その代わり、ベネズエラやコロンビアで作られた<テレノベラ>と呼ばれる同傾向のシリーズがCSで放送され、その1つをアメリカでリメイクした「アグリー・ベティ」というプライムタイムの番組がBS2で放送されました。アメリカ産デイタイム・ソープは、「サンタバーバラ」とアーロン・スペリング製作の「サンセット・ビーチ」(1997年)ぐらいしか入ってきておらず、数々の有名番組が未紹介のままです。日本では主婦も仕事を持っているケースが多く、全般に通勤時間が長いから、デイタイム・ソープは馴染みにくいのかもしれませんが、ソープオペラ・ファンによる日本語サイトを見ると、荒唐無稽なストーリーを好む人はかなり多いようです。今、「サンタバーバラ」を再放送したり、新たなデイタイム・ソープが始まったりすれば、案外、日本にも定着するのではないでしょうか。




















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