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「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」

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「ジェシカおばさんの事件簿」は、見ている年齢層が高いドラマというイメージがありました。だから、NHK総合で放送されていた1988~89年ごろ、ジェイ・マキナニーの短編小説にこの番組のタイトルが引用されていて意外だった記憶があります。"Lost and Found"というその短編は、投資銀行に勤めるコリーンと出版社に勤めるラッセルという若いカップルの話で、2人は当時の言葉でいうヤッピーです。彼らが日曜日の夜を家で過ごしている場面で、つけっ放しのテレビが「ジェシカおばさんの事件簿」に変わっていた、といった描写がありました。やはりコリーンとラッセルを主人公とする別の短編"She Dreams of Johnny"には、コリーンがテレビで"The Honeymooners"を見るくだりがあります。こちらはジャッキー・グリーソン主演のコメディーで、彼が「ハスラー」(1961年)でミネソタ・ファッツを演じる5年前に放送されたモノクロのシリーズですが、これもコリーンのような若い女性が見る番組としては変わっている感じがしました。

翻訳小説を読んでいて、固有名詞や描かれている風俗が気になる人は多いと思います。たいていの場合、それは服や小物のブランド名だったり、食事をする店の名前だったりするのではないでしょうか。ジェイ・マキナニーの小説にもブランド名はカタログ並みにたくさん出てきますが、わたしが興味を持ったのはほとんどが映画やテレビ番組や本の題名でした。主人公に共感せずに読んでいるせいで、そういうディテールばかりに目が行ったのでしょう。

その傾向が顕著だったのが、マキナニーの長編第3作「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」(新潮社)でした。翻訳が出た89年に読んだのですが、20歳の主人公アリスン・プールの気持ちの動きはさっぱり理解できないのに、演劇学校に通っている彼女のモノローグのはしばしに出てくる戯曲や映画の名前などは記憶に残り、あとで作品にじかに接して「これのことか」と思ったことが何度かありました。

例をあげてみます。文庫ではなく単行本の143ページに、演劇学校の生徒がみんなの前でモノローグをやってみせる場面があります。そのモノローグは、ニール・サイモン作「ブロードウェイ・バウンド」から「母親が、ダイニングルームにあるテーブルの歴史を語るやつ」と特定してあります。この戯曲は日本で翻訳上演されましたが、わたしは見逃してしまいました。テアトル新宿で劇場公開されたTVムービー版で、アン・バンクロフトがテーブルを磨きながら語る感動的なシーンを見たのは、93年になってからでした。22ページで、アリスンは「喪服の似合うエレクトラ」のページをめくりながら妹に電話するとき、ヴァナ・ホワイトという偽名を名乗ります。彼女については、「有名なクイズ番組のウイール・オブ・フォーチュンのアシスタント」という、おそらく原文にはない訳者による注が訳文に埋め込まれています。ヴァナ・ホワイトと"Wheel of Fortune"は、「LAロー」というテレビドラマに本人と番組が出てきたのを見ました。「LAロー」の登場人物がクイズ番組に出場して、アシスタントとデートするエピソードがあったのです。

第4章と第10章に描かれていて、章題にもなっている<真実か、勇気か>というゲームは、王様ゲームに似ています。89年当時、王様ゲームが流行っていた記憶はないのですが、日本ではいつごろ広まったのでしょうか。ちなみに"Truth or Dare"は、マドンナのドキュメンタリー映画「イン・ベッド・ウィズ・マドンナ」(1991年)のアメリカでのタイトルでもあります。

ブックオフで手に入れた単行本をパラパラめくっていたら、ほかのディテールについての記憶もよみがえってきたのでしばらく書いてみることにします。

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