「ガイズ・アンド・ドールズ "Off the Record"」
映画「マイ・ルーム」(1996年)は、オフ・ブロードウェイの芝居が原作ですが、ロバート・デ・ニーロがプロデューサーの1人で、ドクターの役で出演もしている他、ダイアン・キートン、メリル・ストリープ、ヒューム・クローニン、グウェン・バードン、レオナルド・ディカプリオの顔合わせなので、まさにバラエティのデレク・エリー氏が「大いなる陰謀」の批評で書いておられる通りの、「オフ・ブロードウェイの舞台劇にビッグネームが名を連ねた」作品でした。
しかし、わたしがこの映画を見に行ったときに興味を引かれたのは、監督がジェリー・ザックスだということでした。彼は俳優出身の舞台演出家です。彼がこれまで演出を手がけたストレート・プレイには、ロバート・アルトマン監督の「ニューヨーカーの青い鳥」(1986年)の原作である"Beyond Therapy"や「ベティとブーの結婚」などのクリストファー・デュラン作品、日本でも加藤健一事務所などによりくり返し上演されている、ケン・ラドウィグ作「レンド・ミー・ア・テナー オペラ騒動記」とラリー・シュー作「ザ・フォーリーナー」という2本のファース、それに「マイ・ルーム」ではアソシエイト・プロデューサーとクレジットされているジョン・グエアが書いた"The House of Blue Leaves"や「あなたまでの6人(原題:Six Degrees of Separation)」 があります。「あなたまでの6人」は、シドニー・ポワチエの息子を名乗る詐欺師の話で、ストッカード・チャニング、ウィル・スミスが出演した映画版「私に近い6人の他人」(1993年、フレッド・スケピシ監督)も作られました。
ザックスが手がけたミュージカルには、コール・ポーターの「エニシング・ゴーズ」のリバイバル(1987年)とフランク・レッサーの「ガイズ・アンド・ドールズ」のリバイバル(1992年)があります。特に後者は大評判となり、ネイサン・デトロイト役のネイサン・レインとミス・アデレイド役のフェイス・プリンスをスターに押し上げました。別のキャストによるツアー版が1993年秋に日本に来て2か月の公演を行ったとき、わたしも日生劇場に行きました。実にテンポがよく、はつらつとしたプロダクションで、これを見た後でジョセフ・L・マンキウィッツ監督の映画版「野郎どもと女たち」(1955年)を見直すと欠伸が止まらないほどでした。
93年6月、BS2がトニー賞授賞式を放送する前の約1週間にわたり、ミュージカルの関連番組を数多く放送しました。「ガイズ・アンド・ドールズ "Off the Record"」はその1つで、アメリカの公共放送PBSが"Great Performances"(以前ご紹介した「ソンドハイム・ミュージカルのすべて」を含む)という枠で放送した40数分のドキュメンタリーです。内容は、リバイバル版のキャストアルバムを録音しているスタジオの模様で、ジェリー・ザックス、ネイサン・レイン、フェイス・プリンス、ピーター・ギャラガー(スカイ・マスターソン役)、ジョジー・デ・グズマン(サラ・ブラウン役)などのインタビューをはさみながら、マイクを前にした本番のパフォーマンスを見せてくれます。途中でフェードアウトする曲もありますが、"Luck Be a Lady"や"Sit Down, You're Rockin' the Boat"はフルコーラスで聞けます。このドキュメンタリーで赤いセーター姿で歩き回るジェリー・ザックスを見て、俳優たちをリラックスさせながら的確なアドバイスをする様子に感心するとともに、彼の名前を記憶にとどめました。
「マイ・ルーム」の原作「マーヴィンの部屋」をオフ・ブロードウェイで演出したのはDavid Petrarcaという人で、ジェリー・ザックスではありません。それなのに、なぜか「マイ・ルーム」がザックスの映画監督デビュー作となりました。白血病を抱えた女性が老いた父と叔母を介護しているという深刻なシチュエーションに、ブラックな笑いを散りばめる作風が、クリストファー・デュランやジョン・グエアと重なるから白羽の矢がたったのでしょうか。わたしとしては、彼にミュージカル映画を撮ってもらいたかったです。インターネット・ムービー・データベースによると、彼は2作目となる"Chess"という映画を撮影中だそうです。ABBAの2人が曲を書いたミュージカルの映画化かと思ったら、そうではなくて、Chess Recordsの創始者Leonard Chessの伝記映画なのだとか。音楽映画ではあるようです。
なお、スコット・マクファーソン作「マーヴィンの部屋」は而立書房から日本語訳が出版されました。日本の劇団がくり返し取り上げています。わたしは三百人劇場で劇団昴が上演したのを見ました。マクファーソンは30代前半で亡くなりましたが、この戯曲は長く上演され続けるでしょう。映画版に有名スターがそろっていることも一助になっていると思います。




















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