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「マーフィー・ブラウン "Off the Job Experience"」

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「ハリウッドの妻たち」は、ギルティ・プレジャーとして失格だと書きました。以前、アンソニー・ホプキンスが主演した"Guilty Conscience"というTVムービーを取り上げた時、題名の意味は罪悪感とか後ろめたさだと述べましたが、こちらは大きな英和辞典を見れば出ているのに対し、guilty pleasureは辞書で見かけたことがありません。でも、用例は多く、検索してみると日本でもそのままカタカナで使っている人が多かった(バーブラ・ストライサンドのアルバム名になっているそうです)ので、わたしもカタカナ表記することにします。

<ギルティー・プレジャー>とは、後ろめたい気持ちを持っていながらやめられないお楽しみのことです。「スーダラ節」の歌詞にある<わかっちゃいるけどやめられねえ>というのがぴったり当てはまると思います。たとえば、体に悪いとわかっていながらスナック菓子やジャンクフードを食べてしまうとか、夜更かしをしてしまうとか、低級な娯楽とわかっていながらついついハマッてしまうということです。

日本の昼メロに相当するソープオペラは、代表的なギルティー・プレジャーだと思います。ハーレクイン・ロマンスの愛読者は多いのに、それを公言する人が少ないのと同じで、ソープオペラを見ている人は多いけれど、それを打ち明ける人はわずかでしょう。映画やテレビドラマを見ていると、その理由が推察できます。ソープオペラを見ている登場人物は、役立たず、怠惰、負け組といったステレオタイプの描写をされている例が多いのです。

たとえば、「TVキャスター マーフィー・ブラウン」の第11話"Off the Job Experience"で、マーフィー(キャンディス・バーゲン)は、ある軍人(「ダイ・ハード2」などのウィリアム・サドラー)をインタビューしている時、彼の態度に業を煮やしてインタビューを勝手に終わらせてしまい、プロデューサーから2週間の停職処分を言い渡されます。マーフィーは、自宅で3日間謹慎しただけで怠惰に過ごす癖がついてしまったという文脈で、"The Young and the Restless"(1973年~ )というソープオペラの続きが気になり始めた、と言います。

スタンダップ・コメディアンのジェリー・サインフェルドが自分自身を演じたシリーズ、「サインフェルド」(1990~98年)には、クレイマー(マイケル・リチャーズ)という変わり者の隣人が出てきます。クレイマーは定職についていない設定で、昼間から"The Bold and the Beautiful"(1987年~ )というソープオペラを見ている場面が、シリーズ中に何度か出てきました。ちなみに、"The Young and the Restless"は化粧品業界が舞台で、その姉妹編にあたる"The Bold and the Beautiful"はファッション業界が舞台だそうです。

ナンニ・モレッティ監督の「親愛なる日記」(1993年)というイタリア映画は、監督自身の日常を描いたエッセイ風の3つの短編からなる作品でした。第2章「島めぐり」で、監督といっしょに旅をしている旧友ジェラルド(レナート・カルペンティエリ)は、"The Bold and the Beautiful"にハマッてしまい、続きを見たいのに見られないとわかると、アメリカから来ている観光客を片っ端からつかまえて、続きを知っている人を探していました。

映画「天国に行けないパパ」(1990年)は、ダブニー・コールマン扮する刑事が自分の余命がわずかだと思い込み、残された時間で手柄を立てようとしゃかりきになる話でした。この映画には、主人公の同僚で、分署でいつもソープオペラ(題名不明)を見てサボっている刑事が登場し、主人公と対照的な存在として描かれていました。

以上の例はすべて、週1回ではなく平日の昼に連続で放送されている、daytime soapと呼ばれる番組です。これを毎回見ようとすれば、おそらく自営業者でも専業主婦でも、1日のルーティーンを部分的に犠牲にしなくてはならないでしょう。ソープオペラには、「ダラス」や「ダイナスティ」のように、週1回、夜の時間帯に放送されるnighttime soap(あるいはprimetime soap)もあります。こちらは、日本で<ジェットコースター・ドラマ>と呼ばれたものに近い印象で、時間はさほど食わないけれど、続きが気になるように作ってあるところはdaytime soapと同じです。

「ハリウッドの妻たち」は2時間×3回で終了するミニシリーズだったので、視聴者を最後まで引っ張るのは、延々と続くソープオペラに比べて易しいはずです。しかし、アンドリュー・スティーブンスが2役で演じた男の正体だとか、キャンディス・バーゲンが自信を取り戻せるかどうかなど、早いうちから結末の予想がつくストーリーラインばかりで、わたしは興味が続きませんでした。

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2008年5月

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