"Film Scenes for Actors"
「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」単行本の18ページによると、アリスンが演劇学校で使っているのは「俳優のための科白集」というアンソロジーで、モノローグ、二人の女のためのシーン、一人の男と一人の女のためのシーン、といったセクションに分かれているようです。アメリカも、小説に比べて戯曲を読む人が少ないのは日本と同じらしいですが、戯曲の出版点数はかなり多く、安価なペーパーバック版も出ている上、このような俳優志望者のための名場面集(シーン・スタディ・ブックと呼ぶそうです)が幾種類も発売されています。演劇学校の教室で、あるシーンの配役を決めて演じたり、モノローグを発表したり、オーディションに備えるのに使うのでしょう。必要なシーンが効率よく探せるように、本によってさまざまな工夫が施されています。登場人物の数と組み合わせによってセクションを分けるのも工夫のひとつです。「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」では、第2章が<一人の男と一人の女のためのシーン>、第8章が<一人の男と二人の女のためのシーン>という具合に、名場面集を意識した題名がつけられています。
アリスンの独白を読んで、名場面を集めた本がどんなものか想像はできましたが、実物を見たくても洋書を扱う書店には置いてありませんでした。あるとき、銀座のイエナでふと見つけたのがJoshua Karton編"Film Scenes for Actors"(バンタム・ブックス、1983年)です。これは、舞台劇ではなく、映画シナリオから名場面を抜粋し、詳しいシーン解説とスタッフ・キャストのデータを付した映画のシーン・スタディ・ブックです。編者の序文に、このような企画は初めてであり、収録されているシナリオはほとんどが今まで活字になったことがない、と記されています。25年経って、現在は台詞の英語字幕を画面に出せるDVDが多いですし、ウェブ上にも台詞を書き起こしたtranscriptがたくさん公開されていますから、この本の有難味はやや薄れました。しかし、台詞以外に細かいト書きまで収録してあるので、読みごたえがあって映画を見るときの参考になります。また、ラインナップが魅力的で、この作品群を選んだKarton氏は、俳優の訓練のためというより、一般の映画ファンが読んで面白いアンソロジーを作ろうとしたのではないかと思ってしまうほどです。
収録されている映画と場面をいくつかご紹介します。
・「或る夜の出来事」(1934年) ピーター(クラーク・ゲーブル)とエリー(クローデット・コルベール)が<ジェリコの壁>で2つに仕切られた部屋で一晩を過ごすシーン。
・「レベッカ」(1940年) ボートハウスでマキシム(ローレンス・オリビエ)が<わたし>(ジョーン・フォンテーン)にレベッカの死の真相を話すシーン。
・「カサブランカ」(1943年) イルザ(イングリッド・バーグマン)がリック(ハンフリー・ボガート)に拳銃を向け、通行証を渡してほしいと迫るシーン。
・「サンセット大通り」(1951年) ノーマ(グロリア・スワンソン)がジョー(ウィリアム・ホールデン)を葬儀屋と勘違いして屋敷に迎え入れる出会いのシーン。
・「波止場」(1954年) タクシーの後部座席でテリー(マーロン・ブランド)が兄チャーリー(ロッド・スタイガー)をなじるシーン。
・「博士の異常な愛情」(1963年) リッパー(スターリング・ヘイドン)がマンドレイク(ピーター・セラーズ)に、水道水にフッ素を加えるのはコミュニストの陰謀だと話すシーン。
・「追憶」(1973年) ケイティー(バーブラ・ストライサンド)がハベル(ロバート・レッドフォード)の処女作を3度読んだと言い、冒頭の一文を暗誦してみせるシーン。
・「アニー・ホール」(1977年) アニー(ダイアン・キートン)がアルビー(ウディ・アレン)を夜中に呼び出して、バスルームにいる蜘蛛を退治してほしいと頼むシーン。
・「ジュリア」(1977年) リリアン(ジェーン・フォンダ)がカフェでジュリア(バネッサ・レッドグレーブ)とつかの間の再会をするシーン。
・「愛と喝采の日々」(1977年) ディーディー(シャーリー・マクレーン)とエマ(アン・バンクロフト)が再会して、ロックフェラーセンターでキャットファイトを演じるシーン。
1930年代から出版当時の新作まで、有名な作品が目配りよく選ばれていると思います。1本の映画から2つ以上のシーンが選ばれている例もあり、合計で44作品、70シーンを収録しています。上記の10作品以外は題名だけ列挙しておきます。
「スミス都へ行く」「市民ケーン」「マルタの鷹」「アダム氏とマダム」「イヴの総て」「アフリカの女王」"The Goddess"「お熱いのがお好き」「荒馬と女」「アラビアのロレンス」「プロデューサーズ」「卒業」「真夜中のカーボーイ」「ひとりぼっちの青春」「ファイブ・イージー・ピーセス」「コールガール」「愛の狩人」「ハロルドとモード 少年は虹を渡る」「ラスト・ショー」「ラスト・タンゴ・イン・パリ」「日曜日は別れの時」「ミニー&モスコウィッツ」「セイブ・ザ・タイガー」「アリスの恋」「チャイナタウン」「狼たちの午後」「シャンプー」「ネットワーク」「ロッキー」「シャーロック・ホームズの素敵な挑戦」「サタデーナイト・フィーバー」「結婚しない女」「ドッグ・ソルジャー」「普通の人々」
*"The Goddess"(1958年)はパディ・チャイエフスキーがマリリン・モンローをモデルに脚本を書いたジョン・クロムウェル監督作品です。




















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