「ロストホーム」
「虚偽/シチズン・コーン」でロイ・コーンの母親を演じたリー・グラントは、赤狩りの犠牲者の1人とされています。彼女は映画「探偵物語」(1950年)で舞台の当たり役を演じてオスカーにノミネートされ、順風満帆のハリウッド・デビューを飾ったあと、夫で劇作家のアーノルド・マノフについて非米活動委員会で証言を求められたのに拒否したためブラックリストにのせられ、ニューヨークに戻って舞台とテレビの仕事を続けました。そういう経験をした女優が赤狩りを推進した男の母親を演じているのは皮肉ですし、一種のリベンジだったのかもしれません。
リー・グラントの名バイプレーヤーとしての活躍は長く、受賞歴もにぎやかです。テレビでは、60年代半ばのTVシリーズ「ペイトン・プレイス物語」で最初のエミー賞を得て、「虚偽/シチズン・コーン」のフランク・ピアソン監督と組んだ「ネオン輝く日々」(1971年)で2度目のエミー賞を得ています。後者のTVムービーはギグ・ヤングとの共演作で、わたしはぜひ見たいと思っているのですがチャンスに恵まれません。エミー賞では他に「刑事コロンボ/死者の身代金」の犯人役、主演シリーズ"Fay"、「虚偽/シチズン・コーン」などで候補になりました。60年代にはハリウッド映画にも復帰して、「真夜中の青春」(1970年)「シャンプー」(1975年)「さすらいの航海」(1976年)でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされ、「シャンプー」で受賞しました。
女優としての活躍以外に、彼女には映画監督としての顔もあります。AFI(American Film Institute)で学んだあと、ドキュメンタリーとフィクションの両方を手がけているのが監督としてユニークだと思います。ドキュメンタリーの"Down and Out in America"(1986年)はHBOが製作した作品で、グラントはナレーションも担当し、アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を獲得しています。失業してホームレスになった人々に取材したものだそうですが、日本には入ってきてないようで未見です。
「ロストホーム」(1989年)は、このドキュメンタリーの副産物というのか、同じテーマをフィクションとして扱ったCBSのTVムービーです。これは10年ほど前にテレビ東京の昼の映画枠で見ました。ジェフ・ダニエルズとクリスティン・ラーティ夫妻には幼い子どもが2人いて、夫はアパートの管理人をしながら電気技師の資格をとるために勉強をしており、妻はウェイトレスをしていました。ある日、アパートが火事になり、一家は家を失うと同時に夫は仕事も失います。しばらくは親戚(キャシー・ベイツ)の家にやっかいになり、夫は電気技師として職も見つけるのですが、親戚に頼りつづけるわけにもいかず、福祉施設に移ることになります。夫の雇い主が廃業して引退することを決めたため、次の仕事が見つかるまで家族は離れ離れになります。さらに不運が続くのですが、最後までリアルな展開で、安易な解決を拒否した作りになっていました。ドキュメンタリーでは見てくれない視聴者層に真摯なメッセージを伝えようとする姿勢がうかがえるだけでなく、グラントの演出家としての腕前もなかなかすぐれていると思いました。
彼女は同様にして、"Wilmar 8"(1981年)というドキュメンタリーで賃金や昇進で男性と平等の待遇を求めてストライキをした女子銀行員たちに取材したあと、"A Matter of Sex"(1984年)というTVムービーを作り、後者には娘のダイナ・マノフと共に出演もしました。こういう取り組みをした監督は珍しいと思うので、映画監督リー・グラントの紹介が日本でもなされることを期待しています。特にフィクションの"Tell Me a Riddle"(1980年)はぜひ見たいです。メルビン・ダグラスとリラ・ケドロヴァが老夫婦に扮したロードムービーらしく、「黄昏」(1981年)や「バウンティフルへの旅」(1985年)に先立つ作品と言えそうです。




















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