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「エンジェルス・イン・アメリカ」

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HBOが製作したオリジナル作品の中で、もっとも規模が大きくて、もっとも話題を呼んだのは、「エンジェルス・イン・アメリカ」(2003年)でしょう。全6時間におよぶミニシリーズです。原作はトニー・クシュナーの舞台劇で、3時間ずつの2部構成になっていたものを、クシュナー自身の脚色、マイク・ニコルズの監督でかなり忠実に映像化されました。

HBOで映像化される前にも映画化の話はあり、ロバート・アルトマン監督が手がける予定だったそうです。実現しなかったのは、2~3時間の1本の映画に内容を圧縮できなかったことも一因だと、原作者がインタビューで語っていました。「指輪物語」を3部構成で映画化する企画にはゴーサインが出るのに、ピュリッツァー賞、トニー賞などを獲得した名作戯曲を2部構成で映画化できなかったのは、大人の観客だけをターゲットにした企画がほとんど見当たらない現在のハリウッド映画を象徴する出来事だと思います。「エンジェルス・イン・アメリカ」はエイズが重要なテーマなので、子どもは最初からターゲットになりえないのです。その点ケーブルテレビなら、長時間の作品はシリーズとして放送すればよいし、内容が大人向けでも問題ないわけです。

「エンジェルス・イン・アメリカ」は、80年代のニューヨークを背景に描かれる7人の人間模様が筋書きの中心です。女装のゲイ、プライアー(ジャスティン・カーク)は、エイズにかかったことを同棲相手のルイス(ベン・シェンクマン)に打ち明けます。ルイスは連邦控訴裁判所のワープロ係で、同裁判所の書記官ジョー(パトリック・ウィルソン)がゲイだと見抜きます。ジョーはユタ州の敬虔なモルモン教徒の家庭で育ち、同郷のハーパー(メアリー・ルイーズ・パーカー)と結婚して、自らの同性愛を否定しつづけていました。しかし、ジョーはルイスと体の関係を持つようになります。プライアーを見捨てて彼のもとを逃げ出したルイスは、友人の看護師ベリーズ(ジェフリー・ライト)に会って、自分のしたことを正当化しようとします。一方、ジョーは有力政治家で同じく隠れゲイのロイ・コーン(アル・パチーノ)に目をかけられていました。実は、ロイ・コーンもエイズに感染していました。ある晩、ジョーは故郷の母ハンナ(メリル・ストリープ)に電話をかけ、同性愛者だと打ち明けます。とるものもとりあえずニューヨークへ出てきたハンナは、ハーパーが薬物中毒であることを知ります。ロイ・コーンの病状が悪化し、入院した病院で彼に付き添うことになったのはベリーズでした・・・。

ここまでは、いくつか偶然はあるものの、現実味のある人間関係が描かれていて、とっつきやすいと思います。しかし、この作品にはタイトルにあるエンジェル(エマ・トンプソン)が重要な役割で登場します。天使はプライアーの前に現れ、彼が預言者だと言うのです。また、ロイ・コーンは実在した人物なのですが、彼が関わった事件でスパイとして処刑された、やはり実在の女性、エセル・ローゼンバーグ(メリル・ストリープ二役)の霊が彼の病室に現れます。このほかにもいくつか超自然の要素、モルモン教という宗教の要素が含まれているため、ついていけなくなる人もいるかもしれません。

しかし、それらの要素さえ乗り越えれば、これほど充実したキャスト、台詞、テーマがそろっている映像作品は、ここ10年、世界中のどこの国でも作られていないと思います。わたしは、原作の戯曲が東京で上演されたものを2種類見て(どちらも演出は同じロバート・アラン・アッカーマンでしたが、劇場の大きさやキャストがまるで違っていました)、内容にあらかじめ親しんでいたのですが、マイク・ニコルズ監督によるこのミニシリーズを見て、新たに感じたこともいろいろありますし、理解が深まった部分もありました。原作が数々の賞を受けたことはすでに述べましたが、この映像化も高く評価され、エミー賞で史上最多受賞のタイ記録を残しています。「エンジェルス・イン・アメリカ」に初めて接する人にもおすすめです。

長い作品で見どころも多いのですが、ひとつ挙げるとすれば、ロイ・コーンが医師(ジェームズ・クロムウェル)にエイズ感染を告げられる場面でしょうか。アル・パチーノが見事な台詞術で医師を言いくるめ、カルテにエイズと書き込むのを阻止するくだりには、まるでシェークスピア劇の悪役のモノローグを聞いているような緊張感があります。同じ場面は、ブロードウェイで初演された年のトニー賞授賞式の中で再現されていました。以前ご紹介した"Best of the Tony Awards: The Plays"のDVDには収録されていませんけど、BS2の中継で見ました。その時のロイ・コーン役はロン・リーブマン(映画「スローターハウス5」「NY検事局」など)で、彼の集中力もすばらしかったです。それを見て「エンジェルス・イン・アメリカ」に対する期待がぐっと高まった記憶があります。

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2008年4月

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