「甘い毒」
ケーブルテレビ局のHBOは自社製作のTVムービーだけでなく、さまざまな映画を放送しています。インディペンデント系の映画の中には、映画館で公開の目途が立たず、ケーブルテレビのオンエアが初公開になるものがかなりあります。ジョン・ダール監督の悪女もの「甘い毒」(1994年、原題:The Last Seduction)もそのパターンでしたが、HBOで放送したところ反響が大きくて、そのあとで劇場公開されたそうです。
特に評判だったのが主演のリンダ・フィオレンティーノの演技で、彼女はニューヨーク批評家協会賞の主演女優賞を獲得しました。オスカーの噂もあったのですが、アカデミー賞のルールによると、テレビで先に公開された作品は、あとから映画館で上映されたとしても選考対象から外すことになっているそうで、候補になれませんでした。
この作品は、日本版DVDが簡単に手に入ります。わたしはレンタルして見ました。確かにフィオレンティーノは一世一代の当たり役という感じで、ヒロインのブリジットを生き生きと演じています。彼女に手玉にとられる男2人を演じるビル・プルマンとピーター・バーグ(今年は「キングダム・見えざる敵」の監督として話題になりました)も適役です。違法ドラッグの取引で得た大金をめぐる駆け引き、保険会社のデータベースから得た情報にもとづく脅迫、ピーター・バーグ扮するマイクの過去の結婚の秘密、と話も盛りだくさんです。水準はクリアしていてかなり楽しめたのですが、ブリジットが文字をさかさまに書けるという特技が伏線としてうまく機能していなかったり、軽快なジャズのBGMが単調なくり返しになってしまっているところは物足りないと感じました。J・T・ウォルシュのようなすぐれた俳優にブリジットの弁護士という役を与えながら、電話で話す場面にしか登場させず、本筋にからんでこないのはもったいないと思います。
この作品のいちばんの特徴をあげるとすれば、それは性描写でしょう。「白いドレスの女」(1981年)や「氷の微笑」(1992年)が1940年代の悪女ものと違っているのもそこでした。「甘い毒」のリンダ・フィオレンティーノは、ピーター・バーグとのセックス場面において、露出はさほどないものの、ふだんなら男性に割り当てられるような動きをします。HBOオリジナルの30分シリーズ「SEX AND THE CITY」(1998~2004年)の第1話「NYセックス事情」で、登場人物の会話の中に「甘い毒」のこの場面のことが出てきました。第1話のテーマは<男性のようにセックスしてみる>だったからぴったりの引用です。
リンダ・フィオレンティーノ扮するブリジットは、通常のフィルム・ノワールの悪女より下品さで勝っています。四文字言葉を何度か発していますし、札束を手にすると札束の臭いをかぎ、男の股間に手を入れてペニスの大きさを確かめたあとで指の臭いをかいだりするのです。地上波と違って、HBOなどのケーブルテレビは契約者だけが見るため、性描写や四文字言葉の使用に寛容です。そういえば「企業買収 250億ドルの賭け」のジェームズ・ガーナーもひんぱんに四文字言葉を使っていました。こうした作品群を見ていると、地上波の連続ドラマやTVムービーがとても窮屈に見えてきます。




















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