「企業買収 250億ドルの賭け」
ジェームズ・ガーナーは「一日の旅路」の前に「企業買収 250億ドルの賭け」というTVムービーに出演しました。原題は"Barbarians at the Gate"といい、「野蛮な来訪者--RJRナビスコの陥落」(ブライアン・バロー、ジョン・ヘルヤー著、NHK出版)というノンフィクションに基づく作品です。1980年代に行われた数々の企業買収のうち、もっとも有名なRJRナビスコ社(キャメル、ウィンストン、セーラムのブランドを持つRJレイノルズ・タバコ社とオレオなどのナビスコ社から成る)のケースを素材にしており、ガーナーはF・ロス・ジョンソンという同社の重役に扮しました。
ジョンソンは自社に対する株式市場の評価が低すぎることが不満でした。折りしも開発中のタバコの新製品が大失敗と分かり、これが知れると株主が逃げてしまうと考えたジョンソンは、その前に自社を買収して私企業にすることを決意します。RJRナビスコ社ほどの大企業の買収となれば、かなりの大金が動くことは誰でも予想できますが、この買収を手柄にしたい投資コンサルタントがこぞって参入してきて、買収額が250億ドルまでつりあがってしまう、というのが話のアウトラインです。
要約が下手でカタい話のように思われるかもしれませんが、この作品はコメディーです。徹底的に笑いで押し通すファースと言ってもよいでしょう。ほぼすべての登場人物が欲の塊のように描かれ、同情できるキャラクターはゼロに近いです。マネー・ゲームに奔走する人々を笑い飛ばす脚本には風刺精神があふれています。脚色を担当したのはラリー・ゲルバートで、彼がこの作品のいちばんの功労者だと思います。ゲルバートは「悪いことしましョ」、「オー!ゴッド」、「トッツィー」などの映画脚本に名前を連ねていますし、ミュージカル「ローマで起った奇妙な出来事」と「シティ・オブ・エンジェルス」の台本、TVシリーズ版「M*A*S*H」で有名です。脚本がすぐれているので、経済用語にうとい人でも、これを見れば<レバレッジド・バイアウト>の意味が理解できるでしょう。
出演者も適材適所で、ガーナーは誇張した動きに頼らず、ごく自然にジョンソンの欲深さと傲慢さを伝えています。投資コンサルタントKKRのヘンリー・クラビスを演じるのは「未来世紀ブラジル」や「エビータ」のジョナサン・プライスで、爬虫類的な気味悪さを漂わせています。ジョンソンの知人で手に余る大仕事をひきうけてしまうロビンソン夫妻に扮するのは、「ロジャー・ラビット」のジョアンナ・キャシディと、最近、大統領選出馬の意思を明らかにしたフレッド・ダルトン・トンプソン。トンプソンが仮装パーティーのためにスーパーマンの衣装を着ているのが笑わせます。ジョンソンのトロフィー・ワイフを演じるのは「氷の微笑」でシャロン・ストーンのレズビアンの愛人役だったレイラニ・サレル。ほかにピーター・リーガート、ジェフリー・デマン、デビッド・ラッシュ、ピーター・フレシェットなどが出ています。
この作品には、プロデューサーとしてレイ・スタークがクレジットされています。「イグアナの夜」(1964年)「追憶」(1973年)、ニール・サイモンものなどを手がけた人で、TVムービーは本作が初めてです。想像ですが、劇場用映画として企画がスタートしたのに、若い観客を呼べそうにないなどの理由でTVムービーに路線変更したのではないでしょうか。わたしが映画館に通いはじめたころは、ターゲットを大人の観客にしぼったコメディー映画が年に数本は封切られていたように覚えていますが、そうした映画はだんだんTVムービーに移行していき、今では絶滅に瀕している気がします。
この作品はHBOというケーブルテレビ局とコロムビア映画の共同製作で、日本ではWOWOWが放送しました。「発掘!シネマ宝島」という枠で劇場未公開映画を放送していて、その中に時々TVムービーが混じっていたのです。何本か見ているうちにHBO印のものは質が高いの気づきました。映画館でお金を払って見た新作よりずっと満足度の高いものもあり、「企業買収 250億ドルの賭け」はその代表でした。なのにVHSもDVDも出た様子がありません。ライブドアのフジテレビ買収騒ぎのとき、知人と話していて何度かこれを話題にしましたが、誰も見ていなくて残念でした。CSでひっそりと放送されることがあるかもしれないので、番組表で見かけたらチャンネルをあわせてみることをおすすめします。




















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