「ヘアスプレー」
ミュージカル版「ヘアスプレー」(2007年)を見てきました。以前も書きましたが、わたしは原作にあたる同名映画(1988年)を見ていません。ブロードウェイで舞台化されたものも見ていませんが、オリジナル・キャストによるCDは持っていて、何度か聞きましたし、小冊子に載っていた歌詞やシノプシス、ジョン・ウォーターズの寄稿にもざっと目を通しました。という具合に、ある程度は予備知識のある状態で見たわけです。
なかなか楽しい映画でした。冒頭のトレイシー(ニッキー・ブロンスキー)が登校する場面やデモ行進の場面など、屋外のシーンが効果的だったと思います。中でも、家にこもりきりの母親エドナ(ジョン・トラボルタ)をヒロインが外に連れ出す場面が印象的でした。トレイシーの影響で、エドナがハメをはずしていく過程がスクリーンから伝わってきました。
ポーリン・ケイルがオリジナルの「ヘアスプレー」を評した中で「狂気をはらむ」という表現を使っています。"5001 Nights at the Movies"で該当箇所を見ると、どうやら原文は"has something like the lunacy"のようです(原著"Hooked"では違う表現かもしれません)。ジョン・ウォーターズがCDに寄せた文章にも"lunacy"という単語が含まれています。これは「月(Luna)」に由来する単語で、精神異常とか馬鹿げた行動を意味します。「カオス・シチリア物語」(1984年)の「月の病」という一編や「月の輝く夜に」(1987年)など、登場人物が月に影響されて突飛な行動をする映画は多いです。「ヘアスプレー」では、ヒロインのトレイシーが<月>で、周囲の人は彼女の影響で今までと違う行動をとることになるようです。
わたしは60年代の音楽より、さらに古いタイプの曲が好きなので、CDで聞いた中ではトレイシーの両親のデュエット"You're Timeless To Me"がお気に入りでした。映画ではトラボルタとウォーケンのデュエットになると分かったときから期待していました(ウォーケンの役はビリー・クリスタルが演じると噂され、ジム・ブロードベントで撮影に入ったという噂もありました)。2人が物干し場を移動しながら歌い踊り、何度か衣装も替える演出ではありましたが、ちょっと物足りなかったです。せっかく出演者の中でも知名度の高いスター同士なのですから、もっと大きなステージで派手に見せてくれてもよかったと思います。
もう1人知名度の高いスターではミシェル・ファイファーが出ていて、悪役を楽しそうに演じていました。彼女と上司役のポール・ドゥーリーぐらいしか人種差別発言をしないのが腑に落ちませんでした。白人は知らず知らずのうちに人種差別をしているという風に描いたほうがよかったと思います。さらに不満な点をあげるなら、2つの場面を並行して見せていくところがギクシャクしていたのが残念です。たとえば、ファイファーがウォーケンに色仕掛けでせまるのと、クイーン・ラティファのレコード店でパーティーが開かれているのを交互に見せるあたりです。
ペニーの母親役のアリソン・ジャニーは「アメリカン・ビューティー」(1999年)のときと役どころが似ていました。実力のある人なのでタイプキャストはもったいないです。そう言えば、ブロードウェイでトレイシーを演じてトニー賞を得たマリッサ・ジャネット・ウィノカーも、「アメリカン・ビューティー」に出演していました。ケビン・スペイシーが勤めるハンバーガー・ショップの同僚の役で、浮気がばれたアネット・ベニングとピーター・ギャラガーに向かって"You're so busted!"(「しくじったわね」)と言い放つところを覚えている方がいるかもしれません。
主演デビューを飾ったニッキー・ブロンスキー以外の若い出演者では、シーウィード役のイライジャ・ケリーが注目株だと思います。彼のように歌とダンスの才能がある俳優が活躍できるよう、これからもミュージカル映画が作られ続けてほしいです。




















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