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「成功の甘き香り」

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「ヒズ・ガール・フライデー」を舞台用に脚色したジョン・グエアの名前をキーワードにして検索すると、ケビン・ベーコン・ゲームやネットワーク関連のページが多くひっかかります。彼の書いた戯曲"Six Degrees of Separation"が、かの有名なゲームの発想の元となり、<ネットワーク思考>に興味のある人を刺激しているためらしいです。
わたしは、その戯曲を映画化した「私に近い6人の他人」(1993年)をミニシアターで見ましたし、その後「あなたまでの6人」という題で六本木の俳優座劇場の稽古場で翻訳上演されたものも見ました。
キャリアの長い劇作家のようですが、日本で知られている作品は少ないです。
映画では、ルイ・マル監督の「アトランティック・シティ」(1980年)が彼のオリジナル脚本です。これも確かミニシアターで公開された作品でした。バート・ランカスター扮する元ギャングが、隣りに住むディーラー志望のスーザン・サランドンと組んで、マフィアを敵に回す話でした。

ジョン・グエアが「ヒズ・ガール・フライデー」の前に取り組んだのが、映画「成功の甘き香り」(1957年)をミュージカル化することでした。J・J・ハンセッカー(バート・ランカスター)という人気コラムニストに取り入ろうとしたプレスエージェントのシドニー・ファルコ(トニー・カーティス)が破滅していく物語ですが、ハードボイルド的な非情さの漂う映画で、ミュージカルとはあまり結びつかないイメージです。

「成功の甘き香り」には、原作となった短編小説があります。作者は「傷だらけの栄光」(1956年)や「北北西に進路をとれ」(1959年)の脚本を手がけたアーネスト・レーマン。「王様と私」(1956年)「ウエスト・サイド物語」(1961年)など、ミュージカルの大作といえばこの人、という存在でもあります。彼の唯一の短編小説集は長らく絶版だったのですが、「成功の甘き香り」が舞台化されるのに合わせて再刊行されました。その本を取り寄せて読んでみると、ハンセッカーが登場する短編が他にもいくつか含まれていました。いずれも小説というよりもスケッチ程度の短いもので、「成功の甘き香り」だけが中編と呼んで差し支えないくらいの長さでした。

映画を見ても原作を読んでも、この話には飲み込みにくい側面があります。ハンセッカーの職業はコラムニストですが、日本で言うコラムニストとかなり違っているようです。ファルコのプレスエージェントにいたっては、日本に該当する職業があるのかどうか分かりません。「フォーン・ブース」(2002年)でコリン・ファレルが演じた男の職業が似た感じでしたが、今はパブリシストと呼ばれているようです。

また、ハンセッカーにはモデルとなった人物が存在します。その人物、ウォルター・ウィンチェルの影響力はとても大きかったようで、たとえば「裸の女王/ジョセフィン・ベイカー・ストーリー」(1991年)というTVムービーでは、ウィンチェルのコラムで下品な芸と酷評されたことがきっかけで、ジョセフィン・ベイカーはパリに活動の場を移したというように描かれていました。ちなみに、このときウィンチェルを演じたのはクレイグ・T・ネルソンでした。ウィンチェルについては、分厚い伝記も書かれていますし、ルー・エアーズ主演の"Okay, America!"(1932年)とスタンリー・トゥッチ主演の「ザ・ジャーナリスト」(1998年)という2本の伝記映画があります。

ウィンチェルは娘の結婚に反対で、自分の影響力を利用して娘のフィアンセがショービジネス界にいられないようにしたことがあったそうです。小説と映画の「成功の甘き香り」では、娘を妹に変えてあるわけです。この件でウィンチェルの名声も色あせてしまったようで、TVシリーズ「アンタッチャブル」のナレーターを務めるなど、後半生の彼のキャリアは比較的地味です。

ミュージカル版に話を戻しますと、ジョン・グエア台本、マービン・ハムリッシュ音楽、クレイグ・カーネリア作詞、ニコラス・ハイトナー演出という布陣で、ハンセッカー役を演じたジョン・リスゴーがトニー賞主演男優賞を獲得していますから、一定の成果はあったようです。オリジナル・キャストが吹き込んだCDを聞いた限りでは、歌詞や台詞に映画と同じシニカルさが感じとれて好印象でした。ちなみに、原作小説と映画は結末が少し違っているのですが、CDに入っていた小冊子に書いてあったあらすじによれば、ミュージカル版はまた違った終わり方みたいです。脚色されるたびに味わいが変わるストーリーは、わたし好みなので、チャンスがあればこの舞台を見てみたいと思います。

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2008年4月

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