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「ウォーターゲート事件の真実」「ニクソンショー・パートI」

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"Frost/Nixon"のインタビュー番組が1977年に日本でも放送されたかどうか知りませんが、番組の映像はいろいろなところで引用されているのを見た記憶があります。
ニクソンが亡くなった94年にNHK教育で放送した「ウォーターゲート事件の真実」でも、デビッド・フロストの質問に答えるニクソンの映像がふんだんに使われていました。これはイギリスBBC制作の5回シリーズの日本語版です。第1回「侵入」、第2回「もみ消し工作」、第3回「裏切り」、第4回「死闘」、第5回「弾劾」という副題が示すように、事件の発生から順を追って話が進み、ニクソンの辞任で終わります。

わたしは、これを見るまで、映画「大統領の陰謀」(1976年)を何度か見て、新聞記者カール・バーンスタインとボブ・ウッドワードの視点からウォーターゲート事件のあらましを眺めていましたが、順番を逆にすればよかったと後悔しました。先にこのドキュメンタリーで客観的に全体を眺めておいて、その後で「大統領の陰謀」を見るのが正しい順番でしょう。ちなみに、「ウォーターゲート事件の真実」にはウッドワードとバーンスタインはほとんど出てきませんが、代わりにヒラリー・ロダム・クリントンがちらっと登場します。

このドキュメンタリーは、おおぜいの証言や当時の報道の映像を小出しにしながら、複雑な事件の概要と背景を分からせてくれる秀作です。しかし、映像としての魅力は、タイトルバックでゆっくりと回るテープレコーダーのリールに代表されるように、昔の通信・録音機器のずっしりした重量感が伝わってくることだと思います。中盤、ホワイトハウスでの会話を録音したテープを誰がどうやって消したかが問題になってくるので、録音機器類は登場人物と呼べるくらい重要です。「大統領の陰謀」や「カンバセーション・盗聴」など70年代の映画を今見ると、そうした魅力がありますし、「ミュンヘン」(2005年)は同じ感触を再現しようと努力していました。「善き人のためのソナタ」(2006年)は80年代の話ですが、似た手ざわりが残っていました。

 

デビッド・フロストのインタビューについては、ジェームズ・レストン・ジュニアという人が分厚い本を書いています。"Frost/Nixon"の映画では、サム・ロックウェルがレストンを演じるのだそうです。

わたしは、ふだん歴史書は読まず、もっと軽い本ばかり読んでいます。このインタビューについて書かれた文章を読んで爆笑したことを思い出しました。アート・バックウォルドというコラムニストが書いたもので、文藝春秋から出ていた<バックウォルド傑作選>の第3巻「嘘だといってよ、ビリー」に収録されている「ニクソンショー・パートI」です。バックウォルドの親戚一同が珍しくテレビの前に集まってフロストの番組を見ているという設定のユーモア・エッセイで、親戚のおじさんに「60万ドルももらってテレビに出て、そのうえなお嘘をつく人間がいるとは思えない」などと言わせています。親戚のおばさんには「いったいなんの権利があって、イギリス人がアメリカの口出し料についてニクソンに質問などするのかしら?」と言わせています。

そうなのです。ウォーターゲート事件はアメリカ大統領の犯罪なのに、フロストのインタビューも「ウォーターゲート事件の真実」も、イギリスで作られた番組なのが特徴です。自国の事件でないからこそ客観的になれて、公平な番組作りができるという意味ではいいことかもしれませんが、アメリカ人の中には歯ぎしりして悔しがっている人もいるでしょう。

イギリス人の書いた戯曲をアメリカ人が映画化する"Frost/Nixon"はさらに複雑で、当時のことを覚えているはずのロン・ハワード監督は、アメリカ人がどういう思いでインタビュー番組を見たかという視点を映画の中に盛り込んでくれるのではないかと期待しています。

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