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"For Keeps" "5001 Nights at the Movies"

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ポーリン・ケイルの本は、3冊の映画評論集の前に「スキャンダルの祝祭」というのが新書館から出ています。これは「市民ケーン」(1941年)を論じた文章で、脚本のハーマン・J・マンキウィッツの功績がオーソン・ウェルズのそれより大きいという論調だったので、物議をかもしました。4冊の翻訳書がぜんぶ違う出版社から出ているのは、日本で彼女の人気が定着していないせいかもしれません。

彼女の未訳の批評をもっと読みたいと思い、原書を買ってみました。それが表題の2冊です。

"For Keeps"は、「ニューヨーカー」の連載をまとめた10冊の映画評論集から抜粋したものと、「スキャンダルの祝祭」の原作"Raising Kane"をまるごと収録した、1200ページ以上もある大冊です。たとえば、「今夜も映画で眠れない」の原書"Hooked"からは、前回引用した「心みだれて」と「ヘアスプレー」は割愛されていますが、訳書で割愛されていた「戦場の小さな天使たち」やマギー・スミス主演の日本未公開作"The Lonely Passion of Judith Hearne"などの批評が読めます。「カオス・シチリア物語」や「サムシング・ワイルド」のように、訳書にもなかったし、ここでも一部抜粋されているだけで、全文を読むには"Hooked"に当たらなくてはならないという例もあります。

"5001 Nights at the Movies"は、「ニューヨーカー」の"Goings On About Town"というセクションのために書かれたものと、長文の批評を圧縮したもの、合わせて3000本近い映画についての短い文章を、題名のアルファベット順に並べて事典の体裁にしてある本で、こちらも800ページを超える分厚さです。"Goings On About Town"は、映画館でリバイバルされたり、いろいろな催しで特集上映される映画の紹介ページらしく、その性質上、ケイルが「ニューヨーカー」で連載を始める前の古い作品に関する文章が多くなっています。結果として、"For Keeps"に含まれていないサイレントやトーキー初期の名作の批評を読めるのが、本書の良い点だと思います。この本の「心みだれて」と「ヘアスプレー」の項目と、日本語訳の長文とを比較してみたら、エッセンスがうまく取り出されているのが分かりました。項目の最後にキャストと主なスタッフが列挙され、モノクロかカラーかも注記されていて、事典としても使えますが、上映時間の記載がないのが玉に瑕です。

というわけで、ケイルの作品評の鋭さを確かめるには"For Keeps"がおすすめですし、彼女の文章のぴりっとした味わいを楽しみたいなら"5001 Nights"がおすすめです。そのどちらでもなく、ある特定の年代の作品を彼女がどう評価しているか知りたければ、10冊の評論集のうち、該当する1冊を購入するといいんじゃないでしょうか。

わたしは、いつかどこかの出版社から10冊の評論集の全訳が出版されるのを期待しています。その日を待ちながら、この分厚い2冊を手の届くところに置いて、ときどき参照していくつもりです。

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2008年4月

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