"Drat! The Cat!"
アイラ・レビンが今月12日に78歳で亡くなりました。日本では彼は、「死の接吻」(1953年)と「ローズマリーの赤ちゃん」(1967年)を書いた小説家として知られています。2作とも映画化されただけでなく、原作と断っていなくても、この2作のプロットを土台にしたとおぼしき小説や映像作品が数多くあります。
レビンは、2つの代表作を発表する間に、生放送のテレビドラマ、戯曲、それにミュージカルの台本を書いています。今後はこの時期の活動にスポットが当たってほしいと、わたしは思っています。
テレビドラマの1つ"No Time for Sergeants"(1955年)は、マック・ハイマンという人の小説を脚色した軍隊もののコメディーでした。レビンがこれを舞台劇に仕立て直したところ、ブロードウェイで上演回数が800に近いヒット(55年10月から57年9月)となり、マービン・ルロイ監督により映画化(邦題「軍曹さんは暇がない」1958年)されました。さらに、先祖がえりと言えばいいのか、同作品は1964年に30分のテレビシリーズになりました。ほかにも戯曲「劇評」(1960年)が約200回上演され、これも映画化されています。以上はすべて成功作と呼べるでしょう。しかし「劇評」の前後に書いた2つの戯曲は1週間も上演されずに打ち切られました。
その後、1965年に発表したのがミュージカル"Drat! The Cat!"です。1890年代のニューヨークを舞台に、気弱な巡査と女宝石泥棒が<猫とねずみ>(当初のタイトル)よろしく追いかけっこするというコメディーです。レビンはまず台本・詞・曲をすべてひとりで手がけて、「野郎どもと女たち」などの作者フランク・レッサーの前で歌ってみせたそうです。その後、エージェントから紹介されたミルトン・シェーファーが作曲を担当し、手直しを重ねながら、エリオット・グールドとレスリー・アン・ウォーレンの主演でブロードウェイにたどりついたものの、8回の上演で打ち切り。ただし、グールドの当時の妻バーブラ・ストライサンドが、劇中でグールドが歌った"She Touched Me"をレコードに吹き込み、ヒットさせました。歌い手の性別に合わせて"He Touched Me"と変えられた曲はスタンダード・ナンバーになり、のちにCMにも使われたそうです。おそらくレビンの小説をひとつも読んだことがなく、「軍曹さんは暇がない」や「デストラップ」を見たことのないアメリカ人でさえ、この曲をCMソングとして聞いたことがあるのじゃないでしょうか。どれだけ多くの人に届いたかを基準にすれば、"He Touched Me"の歌詞こそレビンの代表作と言えるかもしれません。
"Drat! The Cat!"の中では"(S)he Touched Me"が飛びぬけて有名になりましたが、作品全体も根強く支持されています。ここ3回連続登場のブルース・キンメルがプロデュースした、"Drat! The Cat!"の全曲を収めたCDが1997年に発売されました。上に書いた作品成立の経緯は、同CDに封入された小冊子にレビンと解説者が寄せた文章から抜粋したものです。聞いてみると確かに楽しいナンバーがたくさんあり、この作品が忘れられず、CDの形で残ったことを感謝したくなりました。
レビンはさまざまなジャンルで活躍したため、全体像が見えにくい作家です。日本にいて見えるのは、彼の顔の一部に過ぎないと思います。亡くなった後の紹介で、また違った顔を見せてくれるのではないかと楽しみにしています。




















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