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2007年10月記事一覧

"Broadway's Lost Treasures III"

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シリーズ3作目は、BS2で放送済みのトニー賞授賞式からの抜粋がますます増えます。
と同時に、日本で翻訳上演されたことのある舞台も増えます。
「ミス・サイゴン」「クレイジー・フォー・ユー」「君はいい人、チャーリー・ブラウン」など、おなじみの人が多いのではないでしょうか。
ボブ・フォッシーが振付などを担当した舞台・映画のアンソロジー「フォッシー」は、来日公演がありましたし、全体の中継映像がDVDで発売されています。しかし、ここに抜粋されている"Sing Sing Sing"は、照明が明るくてダンサーの動きがくっきり見えるのでおすすめです。

注目していただきたいのは、旧作になりますが、「プロミセス、プロミセス」からジェリー・オーバックの歌う"She Likes Basketball"のナンバーが選ばれていることです。原作の「アパートの鍵貸します」では、主人公バクスターとエレベータガールのフランは、ミュージカル「ザ・ミュージックマン」を見に行く約束をしますが、「プロミセス、プロミセス」ではそれがバスケットボールの試合に変えられているわけです。

すぐ次には「ウエスト・サイド物語」から、有名な"America"のナンバーが収録されています。1980年にリバイバルされたときの映像で、デビー・アレンがアニタ役です。
彼女は、90年代初めにアカデミー賞授賞式の振付を何年か続けて担当していました。
ジェリー・オーバックが"Be Our Guest"を歌ったときも彼女の振付でした。
なお、ここでの"America"は女性のみで踊っているので、最初に見たときは奇異な感じがしました。
映画でも、わたしが見た90年代半ばの来日公演でも、このナンバーは男チームと女チームに分かれて<花いちもんめ>をするように演出されていたからです。
なんでも、舞台の初演のとき、このナンバーは女性のみだったそうで、映画化された後は映画のパターンを踏襲することが多いのだそうです。

ほかに旧作からは、「ローマで起った奇妙な出来事」のオープニング曲"Comedy Tonight"を歌うゼロ・モステルの映像が貴重だと思います。
モステルは映画版にも同じ役で出演していますが、この有名なナンバーは<主題歌>のような扱いで、クレジットと登場人物紹介のナレーションの合間に、途切れ途切れに流れるだけでした(随分前に見たきりなので、記憶違いかもしれません)。ここでの映像ではパフォーマンスがしっかり見られて、オリジナルの舞台を思い描くヒントになってくれます。

"Broadway's Lost Treasures II"

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トニー賞の授賞式は、日本でもBS2で放送されています。以前は、アカデミー賞と同じで、同時通訳付きで生中継したあとに字幕付きで再放送していましたが、現在は授賞式の約1週間後に字幕付きで放送するのみになりました。
"Broadway's Lost Treasures"シリーズの2枚目のディスクには、BS2で放送するようになってからの授賞式の映像が含まれています。たとえば、1992年(この年だけは確かWOWOWでの放送でした)の授賞式からは、グレゴリー・ハインズ主演の「ジェリーズ・ラスト・ジャム」、ネイサン・レイン主演の「ガイズ&ドールズ」(映画化名「野郎どもと女たち」)のワンシーンが選ばれています。

古いものとしては、前回書きました、ジェリー・オーバックが「シカゴ」から"All I Care About"を歌うクリップが含まれています。ほかに、ココ・シャネルに扮したキャサリン・ヘップバーンが歌っている珍しい映像や、ジョージ・ハーンが「ラ・カージュ・オ・フォール」から"I Am What I Am"を熱唱する様を見られます。また、「ラ・マンチャの男」の"The Impossible Dream"を、初演の主演俳優リチャード・カイリーが歌っている映像も入っています。

もっとも注目していただきたいのは「グランド・ホテル」の"We'll Take a Glass Together"のクリップです。男爵と会計士がホテルのバーで意気投合する場面で、バーのカウンターを文字通り1本の棒(バー)で表現するアイデアが秀逸だと思います。
しかし、何よりすごいのが、ここで会計士役のマイケル・ジェッター(ジーターの表記も見かけます)が見せるパフォーマンスです。「雨に唄えば」(1952年)のドナルド・オコナーが"Make 'em Laugh"のルーティーンを酔っ払いながら演じているよう、などと例えたら大袈裟でしょうか。ジェッターはこの作品の演技でトニー賞助演男優賞を得ました。映画ファンには、「グリーン・マイル」(1999年)でネズミのミスター・ジングルズをペットにしていた死刑囚の役が、いちばん知られているかもしれません。

このクリップでは、いっしょに踊っているブレント・バレットがジェッターと好対照の二枚目なのが効果を上げています。彼は「グランド・ホテル」の来日公演でも男爵役でした。今年のBS2がトニー賞授賞式のすぐ後に放送した「キス・ミー・ケイト」の舞台中継で主演していたので、ごらんになった方は彼がコール・ポーターの「ソー・イン・ラブ」を歌うのを聞いたことでしょう。見逃した方はDVDが出ていますから、そちらでどうぞ。

「プロミセス、プロミセス」「ザ・ミュージックマン」「グランド・ホテル」などのミュージカルのさわりを見たければ、YouTubeで検索してみるとよいでしょう。地方劇団や高校で上演したときの記録をアップしている人がけっこういて、アメリカでいかにミュージカルが盛んか、また歌って踊れる俳優の層がいかに厚いかが窺えます。それに、プロの公演の抜粋もいろいろな形で見られるようです。

きょうご紹介する"Broadway's Lost Treasures"は、トニー賞授賞式の生放送中に披露されるノミネート作の一場面を集めたものです。PBSチャンネルで3回にわたって放送された番組を基に、放送では割愛されたフッテージを加えてDVD化されました。
古い映像で不鮮明な部分がありますし、生中継ゆえに口パクも混じっているようですが、それを差し引いても貴重な記録だと思います。

1枚目には、「ザ・ミュージックマン」から、ロバート・プレストンが歌う"Trouble"が含まれています。これは初演時の授賞式からの抜粋ではなく、1971年に過去の受賞作を振り返る特集が組まれたときのもののようです。それでも、リメイク版のマシュー・ブロデリックとはまったく違う個性、演技なのが分かり、彼の解釈によるハロルド・ヒル教授をぜひ映画版で見たいと思いました。
ジェリー・オーバックの出演作では、「42ndストリート」の"Lullaby of Broadway"が見られます。キャストが勢ぞろいするビッグナンバーの中心で歌う、オーバックのカリスマ性が伝わってきます。「シカゴ」からは、グウェン・バードンとチタ・リベラが歌う"All That Jazz"と"Nowadays"が選ばれていて、オーバックのナンバーは同じシリーズの別のディスクに入っています。

ほかの見どころとしては、「スウィーニー・トッド」でアンジェラ・ランズベリー扮するミセス・ラベットが歌う"Worst Pies in London"、「屋根の上のバイオリン弾き」からゼロ・モステルが歌う"If I Were a Rich Man"などでしょうか。
「エビータ」の抜粋でペロン大統領の役で歌っているボブ・ガントンは、「ショーシャンクの空に」の刑務所長役などで映画ファンにもおなじみの顔だと思いますが、これほど歌えるのかと驚く人が多いでしょう。同様に、「キャッツ」のグリザベラ役で"Memory"を歌うベティ・バックリー(「キャリー」「フランティック」など)も実力を見せつけています。

「グランド・ホテル」

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「アパートの鍵貸します」の中で、「ザ・ミュージックマン」は題名が会話の中に出てくるぐらいで、一場面を抜き出して見せてくれることはありません。同様に、映画「グランド・ホテル」(1932年)も題名と出演者の名前が連呼されるだけで、さわりを見せてくれませんでした。
ジャック・レモンが部屋でTVディナーを食べ、ひとりでテレビを見ていると、今から「グランド・ホテル」を放送するというアナウンスがあり、グレタ・ガルボなどオールスター・キャストの名前がファンファーレとともに読み上げられます。テレビの前のレモンは、映画が始まるのを期待して座り直しますが、アナウンサーは「その前に」と言ってスポンサーからのお知らせを始めます。同じことがくり返されて別のCMが始まると、レモンはしびれを切らしてテレビを消してしまいます。
このときリモコンを操作するのが印象的でした。1960年のアメリカで、テレビのリモコンはどれほど普及していたのでしょうか?

「アパートの鍵貸します」を初めて見た時点で「グランド・ホテル」は見たことがなかったため、上記のシーンで一場面でも見られるんじゃないかと望んだのに叶わなかったわけです。
実際に見られたのは数年後で、「暗黒街の顔役」(1932年)と2本立てでした。昔の名作がまとめて上映される企画に含まれていました。出演者の顔ぶれだけでなくホテルのセットも豪華な作品で、人間模様の面白さも味わえるので、以来くり返し見ています。

ミュージカルの話ばかりしていますが、「グランド・ホテル」もミュージカル化されました。演出と振付のトミー・チューンがテレビで映画版を見て、これはミュージカルになると直感したそうです。
ブロードウェイでのロングラン中に、新橋演舞場で約1か月にわたってツアー版の公演があり、その時に見に行きました。ホテル入り口の回転扉が舞台中央にどっしりあるのと、豪華なシャンデリアが目立つほかは、主に抽象的に表現されているセット(装置:トニー・ウォルトン)でした。グランド・ホテルの内装を細部までリアルに再現したセットだったら、バラバラにして飛行機で運ぶのにコストがかかり過ぎて、ツアーに出られなかったでしょう。
ミュージカル版の「サンセット大通り」は、ノーマ・デズモンドの邸宅のセットが壮麗なのが売りでしたから、日本での上演(ツアーも翻訳上演も)がまだないのは、このへんに原因があるのかもしれません。

「グランド・ホテル」のオリジナル・ブロードウェイ・キャスト盤を聞くと、後に有名になった2人にどうしても注目してしまいます。タイピスト(映画ではジョーン・クロフォード)役のジェーン・クラコウスキーと、会計士(映画ではライオネル・バリモア)役のマイケル・ジェッターです。偶然ですが、2人ともデビッド・E・ケリーのテレビドラマに出ていました。クラコウスキーは「アリーmyラブ」の秘書エレインで、ジェッターは「ピケット・フェンス~ブロック捜査メモ~」でカエル男を演じていました。残念ながら、この2人は来日キャストに含まれていませんでしたが、バレリーナ(映画ではグレタ・ガルボ)役のリリアン・モンテヴェッキ、男爵(映画ではジョン・バリモア)役のブレント・バレットは来日していました。

「ザ・ミュージックマン」

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映画「アパートの鍵貸します」(1960年)の中で、ジャック・レモンがブロードウェイ・ミュージカルのチケットを2枚手に入れ、シャーリー・マクレーンを誘うのですが、劇場の前で待っていても彼女は現れず、待ちぼうけをくわされるくだりがあります。
重役の接待で使うためにとった「ザ・ミュージックマン」のチケットが不要になったため、平社員のレモンのところに回ってきたという設定でした。

「ザ・ミュージックマン」は、小さな街を訪れ、楽器や楽譜を売りつけては去っていく詐欺師、プロフェッサー・ハロルド・ヒルの物語です。作者のメレディス・ウィルソンは映画「チャップリンの独裁者」(1940年)と「偽りの花園」(1941年)の音楽を担当した人物です。初演は「ウエスト・サイド物語」と同じ1957年で、トニー賞でミュージカル作品賞、主演男優賞(ロバート・プレストン)、助演女優賞(バーバラ・クック)ほかを獲得しました。
ロバート・プレストンも、ジェリー・オーバックと同じく強面でダンスや歌と縁がなさそうですが、ミュージカル映画「ビクター/ビクトリア」(1982年)のゲイの役でオスカーにノミネートされたので、日本の映画ファンでも彼とミュージカルを少しは結び付けやすいかもしれません。
しかし、肝心の代表作「ザ・ミュージックマン」が彼の主演で映画化されているというのに、日本に入ってきてないのは残念です。
この中の「ティル・ゼア・ワズ・ユー」というナンバーは、ビートルズの曲として知っている人が多いと思いますが、こちらがオリジナルです。
TVプロデューサーでミシェル・ファイファーの夫であるデビッド・E・ケリーは、生まれて初めて見たショーがこの作品だそうで、大ファンであると公言しており、「アリーmyラブ」(1997~2002年)ではあちこちで曲を引用しています。最終弁論で「ユー・ガット・トラブル」を弁護士と陪審員たちが合唱するエピソードまでありました。前作の「ピケット・フェンス~ブロック捜査メモ~」(1992~96年)でも引用したかったけれど、ウィルソンの遺族から許可が出ず、同作でエミー賞などの評価を得て、ようやく音楽の使用を許可されたのだとか。

わたしは、プレストンらが歌うオリジナル・ブロードウェイ・キャスト盤をしばしば聞いていますが、映画版は未見です。マシュー・ブロデリック、クリスティン・チェノウェス主演のTVムービー版リメイク(2003年)を見たところ、ますます本家の映画が見たくなりました。いつか日本に輸入されることを期待しています。

なお、舞台は野口五郎、戸田恵子主演で翻訳上演されたことがあるそうです。

ビリー・ワイルダー監督の映画はミュージカルと相性がよいのか、「サンセット大通り」以前にも「お熱いのがお好き」(→「シュガー」)「アパートの鍵貸します」(→「プロミセス、プロミセス」)がミュージカル化されていて、日本でも両方とも70年代から何度か上演されています。

わたしが見たのは「プロミセス、プロミセス」を1998年に「アパートの鍵貸します」の題で翻訳上演したときでした。主役2人の声が細くて物足りなかったけれど、オフィスパーティーの場面で上司たちが楽器を演奏するところが楽しくて、脇役のほうが印象に残っています。
その翌年にオリジナル・ブロードウェイ・キャスト盤の日本版CDが出て、今でもよく聞いています。
「プロミセス、プロミセス」のブロードウェイ初演は1968年。台本はニール・サイモン、音楽はバート・バカラックです。
主演はジェリー・オーバックで、彼の声が心地いいのでくり返し聞きたくなります。
オーバックはこの役でトニー賞主演男優賞を得ていますし、ほかに「ファンタスティックス」のエルガヨ、「シカゴ」の弁護士ビリー・フリン、「42ndストリート」のジュリアン・マーシュを初演で演じたスターです。
舞台では重要な存在なのに、映画ファンにはあまり知られてない俳優は多いですが、彼はその典型でしょう。「プリンス・オブ・シティ」(1981年)「F/X 引き裂かれたトリック」(1986年)「ウディ・アレンの重罪と軽罪」(1989年)に代表されるように、映画では強面の警官やマフィア役が多いです。「ダーティ・ダンシング」(1987年)にはジェニファー・グレイの父親役で出ていたものの、歌とダンスの実力を発揮する場面は用意されていなかったと記憶しています。わずかに「美女と野獣」(1991年)にルミエール役で声の出演をして「ビー・アワー・ゲスト」を聞かせてくれるのが目立つ程度でしょうか。アカデミー賞の中継で、オーバック本人が大勢のダンサーを従えてこの曲を歌い踊る場面は、その年の授賞式の白眉だったと思います。
惜しいことに、ジェリー・オーバックは2004年に亡くなりました。

ビリー・ワイルダー監督とミュージカルの関係に話を戻しますと、「あなただけ今晩は」(1963年)は原作がミュージカルなのに歌を外して映画化しています。ジャック・レモンもシャーリー・マクレーンも歌えるのだから、ミュージカルのまま映像化してほしかった気もします。
意外だったのは、原作の舞台ミュージカルを演出したのがピーター・ブルックだということです。「マラー/サド」や「蝿の王」のブルックとミュージカル・コメディが結びつかなくて、検索途中で出てきた画面を見て目を疑いました。

クルト・ワイルの「スピーク・ロウ」を聞いて思い出すのは、わたしの場合、「グレンヴィル家の秘密」(1987年)というテレビのミニシリーズです。
1950年代にニューヨークで実際に起きた事件をドラマ化したもので、「運命の逆転」(1990年)のように上流社会をのぞき見る面白さがありました。
アン=マーグレットが上昇志向の強いショーガールで、大富豪の息子と結婚して彼を殺したのに、事故だと言い張る悪女を演じました。姑役がなんとクローデット・コルベールで、女優2人の対決シーンが見せ場でした。コルベールは家名を第一に考え、息子を殺されたと分かっていながら、事件が裁判に持ち込まれないよう根回しをするのです。
「スピーク・ロウ」は、劇中くり返し使われていたのですが、まるで以前「日曜洋画劇場」の最後に流れていたコール・ポーターの「ソー・イン・ラヴ」みたいに、ドラマティックに編曲されていました。
このミニシリーズを演出したのは、アン=マーグレット主演の「ファミリー」「欲望という名の電車」などと同じジョン・アーマン。ちなみに「サンシャイン・ボーイズ」のTVムービー版も彼の演出です。

バーブラ・ストライサンドが歌う「スピーク・ロウ」は、「バック・トゥ・ブロードウェイ」(1993年)というCDで聞くことができます。
バーブラは子どもの時に映画「ヴィナスの接吻」を見て、エヴァ・ガードナーの「スピーク・ロウ」の歌い方が気に入り、いつか自分でも歌いたいと思い続けていたと、解説にありました。
IMDbで調べると、歌はエヴァ・ガードナー本人ではなく、アイリーン・ウィルソンという人の吹き替えだそうです。
ちなみに、IMDbは「ヴィナスの接吻」のリメイクが「マネキン」(1987年)であるとしています。「ヴィナスの接吻」を見ていないので何とも言えませんが、発想のもとになった程度の関連ではないでしょうか。

同じアルバムには、「サンセット大通り」のミュージカル版から2曲が取り上げられており、そのどちらもノーマ・デズモンドが歌う設定の曲です。
このアルバムが発売された頃、舞台「サンセット大通り」はロンドンとLAで上演されたぐらいで、まだブロードウェイには到着していませんでした。
当時の芸能ニュースで、ノーマ役の候補と発表後に降板させられたフェイ・ダナウェイなどの女優が、作曲家のアンドリュー・ロイド・ウェバーに対して訴訟を起こしたという記事を読み、グロリア・スワンソンが演じたあの役をわたしもやりたいと願う女優が多いのだなと思いました。
すでにスタンダードになっている「魅惑の宵」や「スピーク・ロウ」に混じって、出来立てホヤホヤの新作の曲を採用したのは、ノーマを演じたいというストライサンドのアピールだったのかもしれないと想像すると楽しいです。
「刑事コロンボ/忘れられたスター」のグレース・ウィーラーが実在の人物だとしたら、彼女もノーマ役を望んだでしょう。

ピーター・フォーク主演の「刑事コロンボ」シリーズに「忘れられたスター」(1975年)という一編があります。
このエピソードの冒頭に、デイリー・バラエティのコラムニスト、アーミー・アーチャードが本人の役で登場します。場面は「ソング・アンド・ダンス」という映画のプレミア会場で、上映が終わって出てきたグレース・ウィーラー(ジャネット・リー)とネッド(ジョン・ペイン)にインタビューするという役どころです。

グレースはミュージカル映画の元スターで、ネッドは長年のダンス・パートナー。インタビューの中で、グレースはブロードウェイの舞台に復帰する計画を明かします。彼女の夫(サム・ジャッフェ)が舞台への出資を拒んだため、彼女は夫を殺害し、コロンボの登場となるわけです。

このエピソードは、いつもの「刑事コロンボ」と違って、ちょっと湿っぽい印象があります。理詰めの知的パズルとしてこのドラマを楽しんでいる人には不満が残るかもしれません。ドラマを見て泣くのが好きとか、推理ものは苦手という人のほうに、むしろ向いている気がします。理由は犯人の人物像にあります。
過去の出演作を自宅の映写室で見直し、カムバックを夢見るグレース・ウィーラーというキャラクターは、「サンセット大通り」(1950年)のノーマ・デズモンドを下敷きにしたバリエーションでしょう。「サンセット大通り」を見てノーマを哀れに思った人は、グレースにも同情するはずです。

冒頭でプレミア上映される「ソング・アンド・ダンス」は、「ザッツ・エンタテインメント」(1974年)のバリエーションのようです。「ソング・アンド・ダンス」という題の映画は実在しないみたいですが、過去のミュージカル映画の名場面集という設定ですから間違いないでしょう。
劇中でグレースが見る"Walking My Baby Back Home"(1953年)は実在の映画ですが日本未公開。ユニバーサル制作のミュージカル・コメディです。「刑事コロンボ」がユニバーサルTVの作品だから選ばれたものと思われます。
グレースが復帰作に選んだ"One Touch of Venus"はクルト・ワイル作品で、「スピーク・ロウ」のナンバーが劇中で流れます。ジャネット・リーとジョン・ペインがデュエットしていますが、ほんのさわりだけなのが残念です。
舞台の「ワンタッチ・オブ・ヴィーナス」は、エリア・カザン演出、アグネス・デミル振付、ケニー・ベイカーとメアリー・マーティンの主演。映画化名は「ヴィナスの接吻」(1948年)で、ロバート・ウォーカーとエヴァ・ガードナーの主演。青年が彫刻のヴィーナスにキスをすると、彫刻が動き出すというストーリーだそうです。日本では、宝塚花組が1993年に上演したとのことです。

こんにちは。はじめまして。

なるべく毎日更新しますので、よろしくお付き合いください。

 

バラエティ紙と聞いて最初に思い出した映画は「サンシャイン・ボーイズ」(1975年)でした。

アメリカの芸能界を描いたものなら、どんな映画にバラエティ紙が出てきてもおかしくないのですが、なぜか「サンシャイン・ボーイズ」が浮かんだため、押入れのダンボール箱を探して、WOWOWがこの映画を放送したときに録画したテープをひっぱり出しました。

 

ウィリー(ウォルター・マッソー)は老いたボードビル芸人で、世間は彼がとっくに引退したものと思っていますが、甥のベン(リチャード・ベンジャミン)が見つけてくれるテレビCMの仕事のオーディションを受けたりして、本人はまだまだ現役のつもりでいます。

ウィリーがひとりで暮らすニューヨークのわびしいアパートに、食料品の袋をかかえたベンがやってきて、部屋に入るなりウィリーに渡すのがバラエティ紙なのです。

現役ならオーディション情報にでも目を通せばいいのに、実際は引退同然なので、バラエティを開いたウィリーがまっ先に見つけるのは、知り合いの老作曲家の訃報です。

ウィリーは昔<サンシャイン・ボーイズ>という漫才コンビの片割れでしたが、43年もいっしょに舞台に立ったパートナーのアル(ジョージ・バーンズ、この作品でアカデミー助演男優賞を受賞)とケンカ別れしていました。

テレビ局の企画で<サンシャイン・ボーイズ>が1日だけ復活することになり、ウィリーとアルがしばらくぶりに再会して、こっけいな場面が展開していきます。

再会したとき、ウィリーは老作曲家の死を話題にしますが、アルは訃報を知りませんでした。芸能界からすっかり遠ざかり、娘夫婦と田舎で暮らすアルは、バラエティを読んでいなかったのでしょう。

ウィリーとアルの境遇の違いを描く小道具として、ニール・サイモンはバラエティ紙を登場させたのだと思います。

 

この映画は、オスカーを獲得したのに日本では劇場未公開に終わったため、どうも知名度が低いようです。むしろ、テアトルエコーによる翻訳上演(納谷悟朗、熊倉一雄主演)のおかげで、この戯曲に親しんでいる人のほうが多いかもしれません。わたしも舞台を先に見た記憶があります。

同じ戯曲が1990年代にピーター・フォークとウディ・アレンの主演でTVムービーとしてリメイクされました。これは見ていませんが、興味深い組み合わせなので、いつか見てみたいものです。

2008年4月

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